緊急事態宣言下の春先から「コロナうつ」の深刻化が叫ばれてきたが、自粛ムード明け以降のほうが、うつ症状になる人が増えているという。
都内在住のA氏(58・公務員)が、妻の“疲れ”を感じ始めたのは、8月に入ってからのことだった。
「私がテレワーク、子供の学校が休みだった頃は、『食事を作るのが大変』なんてボヤきながらも、普段通りの明るさでした。ところが、緊急事態宣言が明けて、やっと日常生活が戻ってきたあたりから、『体が重い』とグッタリすることが増えました。台所で料理中にボーッとして鍋が沸騰しても気づかないことも。普通に食卓で話がはずむ時間もあったので、溜まっていたストレスや疲れが一時的に出てきただけだろうと思っていたのですが……」(A氏)
だが、9月に入り、ニュースやワイドショーでGo Toキャンペーンが取り上げられ、徐々にコロナの話題が薄れても、妻は変わらなかった。
「好きなチーズケーキを買って帰っても、『今日はいらない』と言われたり、かといっていつもはそこまで飲まない缶ビールをあおってフラフラになったり。風呂掃除の仕方などにも異常に口うるさくなり、子供たちにも強く当たるようになったので、“このままではいけない”と、一度心理カウンセラーに相談してみることを勧めました」(同前)
結果、A氏の妻は「うつ病の前段階にあたるうつ症状がみられる」と診断されたという。
全国的に「コロナうつ」の急増が懸念されたのは、緊急事態宣言下の4~5月。だが、精神科医の香山リカ氏は、「当時それらしい患者さんはあまりやってこなかった。むしろこの1~2か月のほうが、うつ症状を訴える患者さんが多くなっています」と、「コロナ後うつ」の増加を指摘する。主な症状は不眠、不安感、無気力、倦怠感、情緒不安定などだという。
「緊急事態宣言中は、誰もが緊張して“ここを乗り切ろう”と必死になり、集中し感染対策をとっていた。しかし人間はそうした臨戦態勢をいつまでも続けられるわけではありません。人がストレスに晒された時の反応は、緊張状態にあたる『警告反応期』、ストレスへの抵抗力が生まれる『抵抗期』、そして心身のバランスが崩れる『疲はい期』へと進行していきますが、いまはこの『疲はい期』に当たると見ることができます」(香山氏)