映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづる週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、モデルから俳優に転身した直後の加藤雅也が、故・五社英雄監督や坂東玉三郎に教えられたことについて語った言葉をお届けする。
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加藤雅也は一九八八年に俳優としてデビュー、同年の映画『マリリンに逢いたい』で主演した。
「僕は演技の勉強をしていなかったので、張子の虎でした。ですから、現場で勉強するしかありませんでした。
たとえば、別の作品ですがカメラマンの長沼六さん(六男)に『加藤さんは何をやり出すか分からないし、どう動くか分からないから、ミドルショットでほとんど押さえてるんだよね』と言われたんです。ミドルショットというのは、上半身が入るショットのことです。
ということは、クローズアップを撮る時はあまり動いちゃいけないんだ、とか。そういうことを現場で教えてもらいました。実は現実と違うテンポでやらないといけなかったりとか。
『マリリン』の時は撮影開始の二週間くらい前に島に送られて『お前、そこに住んでろ』というところから始まりました。それで準備する時間がありました。
犬の話なので犬がNGを出したらこちらの演技がOKでもダメになった。先輩たちがOKを出していく中で自分がNGを出すと萎縮しますが、ここでは犬が先にNGを出してくれるので、少しだけ気が楽になりましたね」
翌八九年には五社英雄監督の映画『226』に出演、クーデターを起こす青年将校の一人を演じた。
「五社さんは僕からすると大・大・大監督ですから。そのオールスター映画に選ばれたのは凄く光栄なことでした。
『ああしなさい、こうしなさい』と言う人ではなくて、その人間を活かしてくれる監督でした。じーっと演技を見ていて、ここぞというときに近寄ってきて『奥歯を二、三回くらい噛みしめてくれ』みたいなことをおっしゃって。そうすると、それが苦悩の表情になるんです」