駅裏の薄暗いビルにある素性が分からない金貸し屋だったら、そのドアを開けて金を借りようとする人は限られるだろう。ところが、実態はそれほど変わらない、いやもっと悪質かもしれないのに日常的にスマホでみかけるSNSで知ったからと借りてしまう人が少なくない。だが、それをきっかけにSNSでもリアルでも居場所を失う人が後を絶たない。ライターの森鷹久氏が、SNSの個人間融資を利用した人が、すべてを失うことになった顛末についてレポートする。
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「たった5万円です。たった5万円であそこまでするでしょうか……」
こう言って泣き崩れたのは、関東某県在住のアルバイト・中田春奈さん(40代・仮名)。ほんの半年前まで、生まれ育った実家で暮らしながら、近くの飲食店に勤務するというごく平凡な生活を送っていたのだが、とあるきっかけで、何もかも失った。
「給料日直前、どうしてもお金が必要になり、ツイッターで知り合った方から、5万円を借りました。もちろん、いけないことだとは思っていましたが、給料で返せばいい、そう思っていたんです」(中田さん)
ツイッターなどのSNS上で「個人間融資」と検索すれば山ほど出てくる怪しげなアカウントや書き込み。これらはすべて、関係機関に届け出などをしていない違法な「闇金」業者であり、10日で1割というこれまた違法な利息を取る通称「トイチ」、もしくはそれ以上の高い金利をつけて客に金を貸す。
中田さんの両親は共に介護が必要な後期高齢者で、特別養護老人ホームで暮らしている。2人の年金や介護保険を使っても入居費用は賄えず、中田さんの十数万円の月給から月数万円を捻出しなければならない。さらに悪いことに、両親が施設に入る直前に自宅のリフォームとバリアフリー工事を行なったため、銀行で借りたローンもたっぷり残っている。そこにきてのコロナ禍は、まさに泣きっ面に蜂と言えた。
「コロナで仕事がなくなり、給与が片手ほどしかもらえない。銀行への返済が滞ると信用情報に傷がつくと聞き、その場しのぎのつもりでSNS経由で借りました。ツイッターとラインでやり取りをし、いつまでに返済するという念書を書き、私の顔写真と共に相手に送りました。その際、住所の確認用にと免許証と保険証の写真も要求され、言われるがまま送りました。危ないことだとは思いましたが、頭の中が返済でいっぱいでした」(中田さん)
怪しい業者に5万円を借りた中田さんだったが、口座に振り込まれたのはなぜか3万9千円程。業者によれば、5千円は利息の天引き、残り5千円は事務手数料、端数は銀行への振込手数料である、ということだった。利息の説明はあったものの、そのほかの手数料についての説明はなく、納得がいかない中田さんは、その件について、先方を問い詰めた。すると……。
「急に、送られてくるメールの文調が怖い感じになり、返さないなら考えがあるとか、文句があるなら警察へ駆け込めばいい、と送られてくるようになりました。返済期限前に、4万5千円を振り込むと、それでは足りないと催促されました。返すものは返したし問題ないと思っていると、一週間ほどで勤務先の上司から呼び出されました」(中田)