トランプ氏が未承認の新薬を使ってコロナを克服した「ミラクル」に賛否両論が飛び交っているが、大統領がスピード回復しても、アメリカの社会と経済は重症のままだ。ニューヨーク在住ジャーナリスト・佐藤則男氏は、いよいよ危険な世相になってきたと警告する。
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大統領選挙の陰で、二つの事件が「アメリカの重症化」を物語っている。一つは9月に起きたオレゴン州の森林火災で、もう一つは10月8日に13人の容疑者が逮捕された「ミシガン州知事暗殺未遂事件」である。
オレゴン州の森林火災は史上最大規模の被害をもたらし、同州とカリフォルニア州で東京都の2倍以上にあたる面積の森林が灰の山になった。ワイン産地として世界的に有名なナパバレーの被害も深刻で、アメリカ経済への打撃も過去最大級だ。
この火災で取り沙汰されたのが「火つけ説」である。FBIは否定しているが、SNS上では「急進左派組織Antifa(アンティファ)が放火した」という説が拡散され、保守派は今もテロだと言い続けている。これは、大統領選挙でトランプ氏が民主党を社会主義者の集団だと非難し、バイデン氏の支持者の中には無政府主義者が潜んで、法と秩序を破壊するテロを企んでいるとほのめかしていることと無関係ではない。
そんな不穏な世相のなかで、現実のテロがミシガン州に飛び火したのである。逮捕された13人のテロリストには、「ウルヴァリン・ウォッチメン」と名乗る武装集団のメンバーが含まれており、犯行グループは当初、200人の仲間を集めて州議会議事堂を襲撃する計画を立てていたという。その後、仲間が集まらないことで計画を変更し、グレッチェン・ウィットマー知事を別荘で誘拐し、「裁判」にかけて殺害する準備をしていたとされる。
驚いたことに、ウィットマー知事は記者会見で、この計画は「トランプ大統領が扇動した」と激しい言葉で非難した。大統領選挙のテレビ討論会でトランプ氏が過激右派組織を明確に批判しなかったことを挙げ、「指導者がそうした団体と親しく交われば、彼らの行動に加担したことになる」と主張したのである。筆者は会見を見ていて、さすがに牽強付会な論理だと感じたが、命を狙われた知事が、そこまで言葉を極めて大統領批判をする理由は確かにある。
ミシガン州は大統領選挙で注目される激戦区の一つである。民主党のウィットマー氏は、コロナ対策で厳しい規制をかけ、共和党やトランプ大統領は、それを批判してきた。そのなかで過激右派が知事を暗殺しようとしたのであるから、少なくともトランプ陣営の知事攻撃の影響があったことは想像に難くない。