この秋クールの連続ドラマが続々とスタートしている。ラインナップを見てみると、ある特徴があることに気づく。恋愛ドラマが急増しているのだ。いったいなぜか? コラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんが解説する。
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今秋はネット上に「こんなに多いのはいつ以来?」という声が飛び交うくらい、ひさびさに恋愛ドラマがそろいました。
14日にスタートした『#リモラブ ~普通の恋は邪道~』(日本テレビ系)は、コロナ禍の設定をいち早く採り入れたラブストーリー。ソーシャル・ディスタンスやテレワークなどの描写が新鮮さを感じさせ、話題を集めています。
20日にはコンビニのバイトと社長の恋を描く『この恋あたためますか』(TBS系)、23日には母たちの婚外恋愛がテーマの『恋する母たち』(TBS系)、26日には25年間“共演NG”だった元恋人同士のラブコメ『共演NG』(テレビ東京系)、27日にはハロウィーンからクリスマスまでの恋模様にフィーチャーした『姉ちゃんの恋人』(カンテレ・フジテレビ系)の第1話放送が予定されています。また、泥棒一家の娘と警察一家の息子の新婚生活を描く『ルパンの娘』(フジテレビ系)も、広義では恋愛ドラマに分類されると言っていいでしょう。
なぜ今秋、「プライム帯(19~23時)で放送される半分近くが恋愛ドラマ」という状況が生まれたのでしょうか。
刑事・医療から恋愛にシフトした理由
1980年代後半から1990年代にかけて秋ドラマは、「10月の第1話から、クリスマスの最終話に向けて盛り上がる」という構成のラブストーリーが多く、「最も恋愛ドラマが多い季節」と言われていました。しかし、今秋に恋愛ドラマが増えたのは、「当時と同じくらい恋愛ドラマへの視聴者ニーズが高まっているから」ではありません。
今秋の背景として挙げられるのは、今春に大幅リニューアルされた視聴率調査。世帯ではなく個人の視聴率が細かく調べられるようになり、スポンサーが求める10~40代の視聴者に向けたドラマ制作がはじまっているのです。実際、今秋のラインナップを見ると、若年層が好む恋愛ドラマが多い一方、あれほど多かった中高年が好む刑事・医療モノの新作はゼロ。民放各局の意識がこれまでとは変わったことがわかるのではないでしょうか。
また、今年に入って『恋はつづくよどこまでも』(TBS系)、『私の家政夫ナギサさん』(TBS系)が高視聴率に加えて大きな反響を巻き起こしたことも、恋愛ドラマへの回帰をもたらしているところもあるでしょう。
さらに、コロナ禍のステイホーム中、韓流ドラマ『愛の不時着』(Netflix)がクチコミから大ヒット作となり、『愛していると言ってくれ』(TBS系)、『やまとなでしこ』(フジテレビ系)、『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)などの名作再放送も含め、ラブストーリーに脚光が当たる機会が増えていました。いまだ重苦しいムードが続く中、制作サイドが、命や事件を扱う刑事・医療モノよりも、「ラブストーリーで癒されたい」という視聴者ニーズに応えようとしているのです。
ただ、「来年以降、一年中ラブストーリーがラインナップされるか」と言えば答えはノー。TBSの火曜ドラマ(22時~)は、ほぼラブストーリーに徹していますが、今のところ他のドラマ枠は年に1~2本程度のペースが予想されています。しかし、今秋から来年の結果によっては、もう少し増えて「2020年代は恋愛ドラマの時代」になる可能性はあるでしょう。