東京都港区にある麻布中学校・高等学校は、東大合格者数トップ10常連校ながら底抜けに自由な校風で知られる。教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏は、近著『麻布という不治の病』で、幅広い業界で異色の活躍を見せる卒業生9人へのインタビューをもとに、自らの母校の時代ごとの校風を活写した。その一部を抜粋し、麻布の自由な校風がどんな個性を育んだのかを見ていく。ニッポン放送アナウンサーの吉田尚記さん(44)は、今の仕事に結びつくフラットな視点が中学・高校時代に培われたと語る。
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天才と一緒に暮らせるのが麻布の醍醐味
ニッポン放送のアナウンサーでオタク界のスーパースター「よっぴー」こと吉田尚記さんは、1994年に麻布高校を卒業したあとの浪人時代もオタクの聖地神保町と秋葉原を自転車で徘徊する生活を続けたものの、なんとか慶應大学文学部に合格。大学では落語研究会に所属した。
たまたま大学の掲示板でニッポン放送のアナウンサー募集要項を発見し、落研で培った話術を披露したところ、うまくハマって内定ゲット。しかしいざ実社会に出ることが決定した瞬間から、鬱になっていく。
会社に入ってからも自分の「コミュ障(俗にいうコミュニケーション障害)」を痛感する日々が続いたが、ある番組をきっかけにブレイク。オタクキャラを前面に押し出して独自のポジションを確立。第49回(2011年度)ギャラクシー賞DJパーソナリティ賞受賞。
アナウンサーの枠組みを超えた仕事が増えすぎたため、会社内に「吉田ルーム」という部署ができたほど。麻布での学びが、オタクなアナウンサーの下地になっているという。
──麻布ではどんな6年間をすごしましたか?
僕みたいな凡人にとって麻布で得られた大きなものは、天才と普通にいっしょにいられたことです。
東大医学部に行くのが当たり前でかつ文化祭で突然難しいピアノクラシックをすごい勢いで演奏しちゃったり。「こんなやつがいるんだな」と心底感心はするけれど、麻布ではそいつらと普通に話ができる。チェスの世界大会に出ちゃうようなやつといっしょに「裕木奈江のオールナイトニッポン」を聞いて、そこについては逆にいろいろ教えてあげるとか。
麻布では人類として優れているレベルの天才の生態を間近に見ることができて、「なーんだ、どうせあいつも地下食のやきそば食ってるんでしょ」と思える。あとはもうごく普通の高校生生活みたいなのがいっぱいあるだけかなと思います。