コロナ禍のストレスのせいか、わがままを通そうとする消費者が増えているという。クレームとは本来、客が被った不利益や損害に対する正当な要求だ。しかし最近は、文句やわがままを言うこと自体が目的になっているケースも増えている。そこで、実際にあった事例を紹介し、その対処法を専門家に聞いた。
* * *
学習塾の講師をしています。ある日、生徒の母親から電話がありました。子供の模試の結果が悪く、泣きながら訴えてきました。
「うちの子はすごく頑張っているんです。それなのに、かわいそうじゃないですか。このままじゃ第1志望はダメかもって、ご飯も食べられない状況でして……」
そのうち嗚咽が激しくなり、話の受け答えすら難しい状態に。結局その母親は1時間以上、電話の向こうで泣きっぱなし。こちらに何を要求したいのかわかりません。もうすぐ授業が始まってしまうのに電話を切るタイミングがつかめず、困ってしまいました。
そこで筆談で塾長に相談したところ、電話を代わってくれました。
すると塾長はやさしい口調で、
「◯◯さま、冷静にお話しくださいますか?」
「……(泣き声)」
「恐れ入りますが冷静にご対応いただくのが難しいようでしたら、一度電話を切らせていただきます。お気持ちが落ち着かれてから、またご連絡くださいませ。私がご対応させていただきますから」
と電話を切りました。
(切っちゃっていいんだ)と、驚きましたが、結局それ以後、その母親から電話はかかってきませんでした。
●専門家の解説「冷静に話ができない客の場合は、落ち着いてから話を聞くこと」
ネガポジ代表の益田麻実さんはこう話す。
「1時間以上もお客さまに泣かれたのに、なんの解決にも至らないのは、健全な業務とはいえません。お客さまが話のできる状況でないなら、このケースのように電話を切っても構いません。ただし、あくまでも対応は丁寧に」
【プロフィール】
益田麻実さん/ネガポジ代表。大手旅行代理店の顧客相談室にて年間4万件ものクレームに対応。現在は、クレーム対応コンサルタント。
取材・文/村瀬真紀
※女性セブン2020年10月29日