いつの時代も人気ドラマにはたくさんの名ゼリフが登場する。大ヒットしたTBS系『半沢直樹』シーズン2でも「おしまいDEATH!」「詫びろ、詫びろ、詫びろ……」など、たくさんの名ゼリフが飛び出した。
こういった名ゼリフを生み出すのは脚本家だ。脚本家は、どうやって一人前となり、どうやって名ゼリフを生むのだろうか──。脚本家の金子成人さんに話を聞いた。
『鬼平犯科帳』(テレビ朝日/フジテレビ 1969~2016年)、『剣客商売』(フジテレビ1973~1983年)はじめ、多数のテレビドラマの脚本を手がけてきた金子成人さん。倉本聰さんに師事し、1972年にデビューするものの、出来栄えは散々。倉本さんから「ドラマとは何かをわかっていない」と説教され、1年ほど、名作映画の脚本を書き写すことに没頭。八千草薫の運転手をしながら倉本さんの脚本の清書をし、修業を続けた。
数年後、『大都会 闘いの日々』(日本テレビ 1976年)に執筆した1話が向田邦子さんの目にとまり、「向田さんが制作会社に紹介してくれて、ようやくひとり立ちできた」(金子さん・以下同)。
脚本を書く上で倉本さんに言われ続けたのが「嘘を書くな」。
「日々の生活は日常会話で成り立っているわけだから、『ふだん使わない専門用語や唐突な説明なんか入れるな』と。筋立てありきだと、自分の都合のいいセリフを書いてしまうから、その人の心情に忠実に書け、と言うわけ」(金子さん・以下同)
そのためには人物設定が不可欠だ。
「倉本さんには『まず登場人物の、生まれてからこれまでの詳細な履歴書を作れ』と言われた。1人につき原稿用紙数十枚は書いたかなあ。すると、『親はどういう思いでこの子の名をつけた?』『ファーストキスの相手は?』と聞いてくる。なぜなら『その人の歴史を知らなければ、そのセリフは出てこないから』と。それが『嘘を書くな』ということなんだよね」
自身の脚本で気に入っているのは、『松本清張シリーズ 天城越え』(TBS、1998年)で、刑事が迷宮入りした事件の資料を運んできた犯人に「重かったでしょ」とかけるひと言。
「犯人だけど証拠がないその男に対し、“資料の重さ”と“犯した罪の重さ”をかけたもので、はからずも出た!という感じだったね」
【プロフィール】
金子成人(かねこ・なりと)/脚本家。1949年長崎県生まれ。倉本聰さんに師事し、数多くの脚本を執筆。1997年第16回向田邦子賞を受賞。現在は小説家としても活躍し、『付添い屋・六平太』シリーズ(小学館)を発表中。
取材・文/佐藤有栄
※女性セブン2020年11月5・12日号