季節は“読書の秋”。何か良い本はないものかと探しているあなたに、おすすめの本を4冊紹介しよう。
●和田氏の同級生達のエピソードが面白い。デキる人は“中央”を目指さない!?
『東大医学部』和田秀樹 鳥集徹/ブックマン社/1500円
昔、乳房温存療法の本を読んで驚いた。日本で未発達だったのは乳がんの権威(東大教授)がリンパごとごっそり取る考え方だったからとか。和田氏は東大医学部出身。鳥集氏は医療ジャーナリスト。実名公表も恐れないこの対談は東大医学部の不遜な体質を暴き、高偏差値の若者には”医学部より輝ける場所がある”と諭す。東大は先の総長選でも大もめ。欲の渦巻く場所のようで。
●作家10年目の著者がものした“大きな物語”。タコツボ化した現代を肯定、その先へ
『スター』/朝井リョウ/朝日新聞出版/1600円
映画祭でグランプリを獲った尚吾と紘。大学卒業後、質にこだわる尚吾は名監督の制作会社へ、直感的にセンスのいい映像を撮る紘はYouTubeの動画制作へ。作家が逃れられない罠が日本にはある。著者と主人公の同一視だ(日本語の特性と言う人も)。でも本書はそう読ませない。2人の対照性を肯定し、その先へ。小説で“アウフヘーベン”(止揚)を実感させるなんて、凄〜い。
●「シャキシャキ」「トゲトゲ」「どかーんどかーん」。オノマトペも弾む楽しい口語短歌
『歌集 滑走路』/萩原慎一郎/角川文庫/580円
「思いつくたびに紙片に書きつける言葉よ羽化の直前であれ」「空を飛ぶための翼になるはずさ ぼくの愛する三十一文字が」──この歌人が32才で自死したことを知ると、祈りの透明度がさらに増す。有名な私立中高一貫校でイジメに遭い、17才で俵万智の口語短歌と出合い、非正規の若者達と心で連帯し、恋に憧れた。この秋映画も公開に。墓碑銘ではなく、収穫祭であれと願う。
●質問ではなく、自分の話から会話を始める。悩めるパパ達、これ、全女性に有効ですよ
『娘のトリセツ』/黒川伊保子/小学館新書/820円
パパと結婚すると言っていた娘が思春期になると「ウザい、臭い」と父親を遠ざける。そんな悩めるパパのためのトリセツ本で、要はコミュ力を鍛えようと伝授する。禁句はいつどこで誰となど相手を問い詰める5W1H。コツはトホホな弱音や身近な相談事など自分のことから話し始めること。著者が我が父を語る第1章が、かつて日本にもあった知的中産階級を思わせ懐かしい。
文/温水ゆかり
※女性セブン2020年11月5・12日号