昭和、平成、令和──いつでも、その時代を映し出す鏡となるのが、テレビドラマの名ゼリフだ。最近では『半沢直樹』(TBS系)の「おしまいDEATH!」や「1000倍返しだ!」も記憶に新しい。
時代をさかのぼってみると、テレビが急激に普及した昭和40年代、ホームドラマが全盛期で、視聴率が50%を超える作品も存在した。しかし平成前夜に起こったバブル景気(1986年~)は、ドラマの形も変えた。主役はひとり暮らしのキャリアウーマン。ブランドの服をまとい、デートはおしゃれなイタメシ屋……。1988年放送の『抱きしめたい』(フジテレビ)では、こんなセリフも登場した。
〈「何でもできるくせに男となるとダメなんだから」(脚本:松原敏春)、仕事はできるが恋愛には臆病な麻子(浅野温子)を親友の夏子(浅野ゆう子)がたしなめるセリフ〉
「視聴率を取ることがドラマの絶対条件となる一方で、野島伸司さんや坂元裕二さん、北川さんら新世代の脚本家がドラマシーンに新しいセリフをもたらしました」と、日大芸術学部教授の中町綾子さん。バブル後、トレンディードラマとは一線を画した刑事ものも登場した。なかでも、「事件は会議室で〜」の名フレーズは、執筆した君塚良一さんの学生時代の友人たちから生まれたものだという。
〈「事件は会議室で起きてるんじゃない! 現場で起きてるんだ!」
「正しいことをしたければ、 えらくなれ」『踊る大捜査線』(フジテレビ)1997年 脚本:君塚良一
前者は映画『踊る大捜査線 THE MOVIE 湾岸署史上最悪の3日間』(1998年)で青島(織田裕二)が会議室の幹部に向かって叫んだ言葉。後者は和久(いかりや長介)が青島にかけたひと言〉
「当時40代手前で、会社勤めの友人たちは中間管理職になり、上司と部下との板挟みで悶々としていました。飲むたびに出てくる『何でも上司の会議で決まってしまう』『現場をわかってない』という愚痴をそのままセリフにしたんです。後に織田裕二さんと監督が気に入り、印象的なシーンに仕立ててくれました。
『正しいことを〜』のセリフは、閉塞的な組織に対する皮肉のつもりで書いたのですが、いかりや長介さんの言葉で、苦労人がたどり着いた人生訓のようになった。俳優の演技によって、ひとつのセリフが深い意味をもつこともあると知りました」(君塚さん)
2000年以降、ドラマの種類や視聴方法は驚くほど細分化された。さらにコロナ禍を経て、ドラマはどこへ向かうのか。
「今後、人とのつながりはますます薄れていき、再び昭和のような、家族関係を見つめ直すドラマが求められるかもしれませんね」(君塚さん)
取材・文/佐藤有栄
※女性セブン2020年11月5・12日号