発端は10月18日投票の愛知県岡崎市長選で起きた大逆転劇だった。岡崎市は人口約39万人の中核市だ。
選挙の構図は自民、公明、立憲民主、国民民主と連合愛知の推薦を受けた与野党相乗りの現職市長・内田康宏に対し、共産党が「自主支援」した中根康浩・元民主党代議士が挑んだ一騎討ちで、内田圧勝を誰も疑っていなかった。
異変が起きたのは告示直前、80億円のコンベンションホールの建設を推進する現職に対抗し、中根候補が「ハコモノよりコロナ対策」と強調して「年内に全市民に1人5万円支給」(「市民税を還元する」という名目だが、市民税を払っていない人にも5万円を支給する)という公約を掲げたことだ。それをきっかけに無風と見られていた選挙への関心が急速に高まり、フタを開けると”泡沫”のはずの中根氏が10万票対7万票で圧勝した。
選挙当日の投票所は”異様”な熱気だったという。内田陣営を応援していた自民党のベテラン政治家が嘆息する。
「逆転の原動力になったのはお年寄り。コロナで無風だから投票率は低いと思われていたが、かなりのお年寄りか投票所にやってきて、係員に『5万円くれる人はどっちかえ』と聞いて困らせる人もいた。答えないと他のお年寄りが、『こっちだ』と教えてやる。長年、選挙をやってきたが、こんな光景は初めてだ。税金を使った買収だよ」
投票率は57.25%で、コロナのなかで前回より2.55ポイントアップした。
「中根新市長は年内に5万円配ると言っているが、市民全員だから総額193億円かかる。市議会では市長を支持した共産党市議は2人しかいないから、そんな条例通せるわけがない。空手形の5万円公約で票を買っただけだ」(同前)
ところが、そう負け惜しみを言ってばかりはいられなくなった。この逆転劇が同じ愛知の豊橋市長選(11月8日投票)にも飛び火。こちらも現職で自民、公明推薦の佐原光一市長(元国交省キャリア)に挑んでいる新人女性候補の鈴木美穂氏(弁当販売業)が突然、「岡崎でもできるなら豊橋でもできる」とHPに「全市民5万円追加給付」の公約を掲げたのだ。