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【書評】急激に高齢化する韓国を豊富なデータで冷静に分析

『韓国社会の現在 超少子化、貧困・孤立化、デジタル化』著・春木育美

『韓国社会の現在 超少子化、貧困・孤立化、デジタル化』著・春木育美

【書評】『韓国社会の現在 超少子化、貧困・孤立化、デジタル化』/春木育美・著/中公新書/880円+税
【評者】関川夏央(作家)

 韓国の合計特殊出生率(TFR)は二〇一九年に0.92まで低下した。それは一人の韓国女性が生涯に一人以下のコドモしか生まないということで、日本の1.36を大きく引き離す。

 二人のオトナが協力して一人のコドモをつくるのだから、乳児死亡を勘案すれば人口維持にはTFR 2.05が必要だ。日本もお先真っ暗だが、韓国はさらに暗い。二〇一九年の人口五一七〇万人が四〇年に九〇万人減、六七年には一二〇〇万人減と予想される。

 日本の六十五歳以上の高齢化率は二〇二〇年で二九パーセント。めでたいというより唖然とする世界記録だ。韓国の高齢化率はまだ一五・七パーセントだが、急な上昇カーブをえがく。二〇五〇年には三八パーセントに達して日本を上回り、六五年には全人口の46.5パーセントが六十五歳以上となる。

 一九九七年の「アジア通貨危機」以来、韓国経済の矛盾はすべて青年層が引き受けたようだ。自分の仕事と夢を捨てて出産・育児するうちに精神を病んだ女性が主人公の小説、『82年生まれ、キム・ジヨン』は韓国の二十代女性から広く共感を得て、さらに多くの若い女性に結婚・出産をためらわせる契機となった。二十代男性は「ヘル朝鮮」と自嘲する。「ヘル韓国」でないのは、いまや韓国は李氏朝鮮のような身分制社会だといいたいのだ。

 本書『韓国社会の現在』は、そんな高失業率と異常なマンション価格高騰の末の「半地下」暮らしで若い世代が結婚への意欲を失う「世代間格差」の実情を、豊富なデータで冷静に書く。

 北朝鮮に過剰に宥和的である一方、日本を「敵」と想定する文在寅政権のあり方は、本人が自認する左派・進歩派ではなく、明らかに「民族主義」右派政権だ。南北統一すれば人口減少と高齢化の流れを脱し、面積でも日本に対抗できると見通しているようだが、北朝鮮の異形の王権もまたコリア民族主義がもたらしたのだという「歴史認識」が欠落している。

※週刊ポスト2020年11月6・13日号

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