再び新型コロナの感染拡大が世界で進んでいる。アメリカでは第3波、ヨーロッパでは第2波の感染拡大がみられ、フランスでは新たなロックダウン(都市封鎖)措置も取られている。日本では爆発的な感染拡大はないものの、感染者数の累計は10万人を超え、なお微増傾向が続いている。そんな中、今後は「集団免疫」が確立して自然に終息に向かう──との見解が海外の研究者グループから出始めた。この集団免疫論をどうみるべきか、ニッセイ基礎研究所主席研究員の篠原拓也氏が考察する。
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世界全体でみると、新型コロナの感染拡大は進んでいる。インフルエンザと同様、ウイルスは気温が下がる冬の季節に、猛威を振るう恐れがあるとみられる。一方、ワクチンはまだ導入されておらず、感染拡大防止の切り札はない。欧米諸国や日本などで、冬の感染爆発の懸念が高まっている。
こうした中で、9月にある研究報告が公表された。ブラジルのある地域では、社会に感染が広がったことで免疫を持つ人が増えて、「集団免疫」を達成して感染が自然に終息に向かうというものだ。自然感染に委ねることで、本当に集団免疫は確立するのだろうか? 少し考えてみたい。
ワクチンがない中での「集団免疫論」
まず、そもそも集団免疫とはどういうものか、みていこう。
新型コロナに限らず、感染症の拡大防止には、「集団免疫」が重要とされている。これは、集団内に免疫を持つ人が多ければ、感染症が流行しにくくなることを利用した感染拡大防止の考え方を指す。具体的には、ワクチンの予防接種等により、集団内の免疫保持者を一定割合まで高めておくことを意味する。
感染症の感染力をみるうえで、「基本再生産数」という概念がある。これは、ある感染症にかかった人が、その感染症の免疫を全く持たない集団に入ったときに、直接感染させる平均の人数を表す。新型コロナの基本再生産数については、これまでに諸説あるが、世界保健機関(WHO)は、暫定的に1.4~2.5と示している。
仮に、基本再生産数が2.5だったとしよう。この場合、10人の感染者から2.5倍の25人に感染が拡大する。もし、この25人のうち、15人以上が免疫を持っていれば、感染するのは残りの10人以下に抑えられるだろう。10人から10人以下に感染――徐々に感染させる人数が減っていけば、いずれ終息するはずだ。
このように、25人のうち15人以上、つまり60%以上の人が免疫をもっていれば、感染は終息する。免疫を獲得するにはワクチンの予防接種が必要だ。だが、残念ながら新型コロナのワクチンはまだない。
そこで、こんな考えが出てくる。予防接種を打たずとも、実際に新型コロナにかかって免疫を獲得してしまえば、同じ効果があるはずだ。3密回避などの予防策を一切とらずに、多くの人が感染すれば、集団免疫が機能して、いずれ感染は終息に向かう──これが、自然に集団免疫が確立するという「集団免疫論」の考え方だ。