インフルエンザ流行の時期を迎え、懸念されるのが新型コロナとの同時流行(ツインデミック)だ。日本をはじめ諸外国でも、重複感染した場合の重症化を防ぐため、インフルエンザの予防接種が推奨されている。そうしたなか、韓国で予防接種後の死亡例が相次いで報告された。韓国の保健行政機関である疾病管理庁が、「インフルエンザワクチンの接種後1週間以内に、80人以上が死亡した」と発表したのだ。10月末に報告された死者は83人にのぼる。
韓国と同様のインフルエンザワクチンを使用しているシンガポールでは一時的な使用停止措置をとっているが、日本でもワクチン接種後に死者が出る懸念はあるのだろうか。厚生労働省に聞いた。
「日本の医療機関で通常使われるインフルエンザワクチンは100%日本製で、韓国製品は輸入していない。昨シーズンは接種後に死亡したケースが7例あるが、接種との因果関係が完全に認められたものはない。今年も特に異常を示すような報告はありません」(健康局予防接種室)
『ワクチン診療入門』の著書があるナビタスクリニック川崎の谷本哲也医師もこう話す。
「日本は戦後すぐ、ジフテリアワクチンの品質に問題があり多くの死者を出す経験をした。それ以降、ワクチンの品質管理は徹底するようになりました。インフルエンザワクチンは輸入品を使わず、国内4社が製造。メーカーの検査だけでなく国立感染症研究所が行なう『国家検定』を経たものだけが流通し、いわば二重のチェックがなされています。この仕組みのもとで長年使われているインフルエンザワクチンの安全性は高いといえます」
では、韓国での死亡事例についてはどうみるか。谷本医師が続ける。
「ワクチンはもともと状態の悪い方にも接種する。つまり、打っても打たなくても亡くなる方が一定数含まれるわけです。韓国のケースでも、死亡者の多くが高齢者で、解剖しても因果関係が見つかっていません。韓国での接種後の死者数は昨年も1500人程度であったと報じられており、1週間で80人超の死亡例が異常なほど多いとは思えない。今年はコロナウイルスの流行で注目されただけではないでしょうか」
※週刊ポスト2020年11月20日号