10月に出版された菅義偉・首相の著書『政治家の覚悟』(文藝春秋)がベストセラーになっている。同書は、2012年に出版された単行本『政治家の覚悟 官僚を動かせ』(2012年3月10日発行)に、官房長官時代のインタビューを追加収録して新書版で再出版したものだ。その版元は、文藝春秋の自費出版部門「文藝春秋企画出版部」である。菅氏が政治資金から686万円を拠出して「自費出版」したというのだ。
自費出版で出した8年前の単行本では、菅氏は印税を受け取っていない。しかし、今回の新書の出版にあたっては改めて印税契約を結んでいるとのこと。印税については、全額を寄付する予定だという。
出版経緯がどうであれ、最初が自費出版であったとしても、内容が読者の共感を呼ぶなら価値がある。しかしながら、新書版の『政治家の覚悟』を読むと、菅氏が小泉内閣の国土交通政務官時代(2002年)に東京湾アクアラインの料金引き下げに奔走したことや、副大臣や総務大臣時代(2007年)に官僚の抵抗を押し切って「ふるさと納税」制度をつくり、NHK改革に慎重だった総務省の担当課長を左遷したエピソードなどを誇るばかりだ。
これまでの首相経験者や総裁候補の著作と比べると、菅氏の「国家観」や政治思想を読み取るのは難しい。むしろ、菅首相が掲げる「携帯料金値下げ」「縦割り行政の改革」などの改革は「10年以上前の政策の焼き直し」にすぎないことが読み取れる。大臣を束ねる立場になった今も、菅氏の立ち位置は「実務家の一大臣」なのではないかとさえ思える。
単行本の中で政治家の覚悟として光る内容があるとしたら、東日本大震災当時の民主党政権の対応を批判した箇所だろう。
〈大災害に対して政府がどう考え、いかに対応したかを検証し、教訓を得るために政府があらゆる記録を克明に残すのは当然で、議事録は最も基本的な資料です。その作成を怠ったことは国民への背信行為〉