トランプ大統領の生命線は「口」である。不動産王であると同時に、テレビタレントとして知名度を上げた同氏は、4年前の大統領選挙当時から、大衆を熱狂させ、扇動する話術に類まれな才能を見せた。4年の任期のなかでは、Twitterでの発信と、「トランプ・チャンネル」と呼ばれるFOXニュースの強力なサポートで、世界から顰蹙を買うような無理筋の政策も強引に押し通してきた。が、その「口」がついに塞がれようとしている。ニューヨーク在住ジャーナリスト・佐藤則男氏が、アメリカの重大な変化をリポートする。
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11月3日の投票日、テレビ各局が選挙特番で視聴率を競っているなかで、キイ・ステートの一つとされていたアリゾナ州で「トランプ敗北」をいち早く報じたのはFOXニュースだった(この件はすでにNEWSポストセブンでリポートした)。トランプ・チャンネルとまで呼ばれる同局が真っ先にトランプ氏の劣勢を伝えたことに筆者は驚き、その分析を番組で披露した予測チームの責任者アーノン・ミシュキン氏はクビになるのではないかと書いた。案の定、その報道を見てトランプ氏が激怒したという話が翌日の新聞で伝えられた。
この小さな、しかし明らかに異様な出来事には、後日談と、そして知られざる伏線があったようである。まず後日談だが、トランプ陣営もやはりこの“スクープ”をおかしいと感じたようで、ミシュキン氏について緊急調査が行われた。つまり、「民主党の回し者ではないか」という嫌疑だ。その結果、確かにミシュキン氏は民主党の一部議員に献金していたことがわかった。陣営は、ミシュキン氏が2000年以降、4500ドルを政治献金しており、そのうち500ドルが共和党に、残りの4000ドルが民主党に対するものだったと公表した。
メディア選挙、メディア政治が意識されるようになったクリントン時代以降、アメリカの政界では、自分に何か不利なことが起きた場合は、素早く行動し、事実を把握し、すぐさま公表することが基本原則になっている。だからこそ、脱税疑惑のトランプ氏が納税記録をいつまでも公表しないことや、バイデン氏がファミリー・ビジネスで不正にカネを受け取っていない証拠を出せないことが有権者の失望を招いているのである。