今年は新型コロナウイルスとの同時流行(ツインデミック)が懸念されるインフルエンザ。日本をはじめ諸外国でも、重複感染した場合の重症化を防ぐため、インフルエンザの予防接種が推奨されている。
ワクチンは予防が目的だが、インフルエンザには特効薬も次々と開発されている。『リレンザ』(発売開始は2000年)、『タミフル』(同2001年)、『イナビル』(同2010年)といった薬品名を一度は耳にしたことがあるだろう。これらに続き、2018年に登場したのが『ゾフルーザ』だ。薬剤師の長澤育弘氏が解説する。
「ゾフルーザはCap依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬と呼ばれ、細胞内でウイルスが増殖すること自体を阻害してインフルエンザを治療する薬です。『タミフル』『イナビル』などは増殖したウイルスが細胞外に出るのを抑える薬で、増殖そのものを阻害する作用はない。これまでとは根本的に異なる新薬として迎えられた」
患者の負担も軽い。1日2回、5日間の服用が必要だったタミフルとは違い、経口薬を1回飲むだけで治療が完結する。このためか2018年度(2018年4月~2019年3月)は抗インフルエンザ薬の売上高トップに躍り出た。
そのゾフルーザに対して、コロナの感染拡大に注目が集まっていた今年3月、厚生労働省は添付文書の〈重大な副作用〉の項に「虚血性大腸炎」の追記を求める指示を出していた。国内で虚血性大腸炎の報告が13例あり、うち8例で因果関係が否定できていない、というのがその理由だ。
虚血性大腸炎とは、大腸の血のめぐりが悪くなり、粘膜に炎症や潰瘍などができる病気。発売元の塩野義製薬はこれまで使用した約427万人のうち13例で虚血性大腸炎の報告があったとし、「メカニズムは不詳だが医療機関への訪問やお知らせ文書の発行、ホームページへの掲載などで周知している」(広報部)と説明する。長澤氏が助言する。
「すでに販売された薬に副作用が追加されることは頻繁にある。しかも『頻度不明』とされており、そこまで気にする医師や薬剤師はいないのが実情。いたずらに恐れるのではなく注意深く使用するのがいいでしょう」
どんな薬にも副作用はある。医師ら専門家と相談して、慎重かつ適切に服用したい。
※週刊ポスト2020年11月20日号