【書評】『つくられた格差 不公平税制が生んだ所得の不平等』/エマニュエル・サエズ 、ガブリエル・ズックマン・著 山田美明・訳/光文社/2200円+税
【評者】森永卓郎(経済アナリスト)
グローバル資本主義は、世界に大きな所得格差を生んだ。特にアメリカの場合はそうだ。本書によると、1980年に所得上位1%の所得が国民所得に占める割合は10%をやや超える程度だったのが、現在は20%を超えている。その分、下位50%がずるずると転落している。ただ、本書のテーマは、そこではない。税制が、所得格差の拡大に輪をかけていることだ。
今回の大統領選挙でも、トランプ大統領が連邦所得税をほとんど支払っていないことが問題になったが、実は4年前の大統領選挙でも、その問題は指摘されていた。クリントン候補が、トランプ候補が所得税を支払っていないことを追及すると、トランプ候補は、「それは私が賢いからだ」と答えたという。統計でみても、アメリカの富裕層が支払っている実効的な所得税率は、平均を大きく下回っている。所得税の税制自体は、アメリカも累進課税になっているのだが、なぜそんなことが起きるのか。
富裕層は、所得の多くを資本所得が占めている。その税率は20%で固定されていて、累進課税になっていない。しかも、さまざまな税の控除制度があって、所得を圧縮することができるのだ。一方、庶民の所得は給与であり、そこには控除の仕組みがない。また、税制が複雑であることを逆手にとって、「税金対策産業」が様々な節税策をひねり出し、富裕層の税金を圧縮していく。庶民は、そもそもそうした産業を利用する資金もないのだ。
本書はアメリカの税制を論じているのだが、読めば読むほど、その仕組みは、日本とそっくりだ。だから、著者の税制改革案は、日本にもそのまま適用できる。
著者の提案は、すべての所得を合算して総合課税にするとともに、超富裕層に課す総合所得の最高税率を地方税なども含めて現行の30%から60%に引き上げることだ。これだけで税収は7500億ドル(79兆円)も増加するという。庶民の負担は一切ない。8割以上の国民が社会保障に不安を持つ日本にも必要な税制ではないか。
※週刊ポスト2020年11月20日号