ライフ

近代日本の「性差」 国の方針が「良妻賢母」を生み出す

子供と炭鉱労働を行う“女坑夫”。低い坑道の天井に幼児の頭をぶつけないよう、まだ背の低い10才未満の息子が背負っている。(ユネスコ「世界の記憶」入坑(母子)(山本作兵衛氏炭鉱記録画)1890(明治32)年頃 田川市石炭・歴史博物館蔵(C)YamamotoFamily)

子供と炭鉱労働を行う“女坑夫”。低い坑道の天井に幼児の頭をぶつけないよう、まだ背の低い10才未満の息子が背負っている。(ユネスコ「世界の記憶」入坑(母子)。(山本作兵衛氏炭鉱記録画)。1890(明治32)年頃。田川市石炭・歴史博物館蔵(C)YamamotoFamily)

 古代日本の「倭国」の人々は、年齢も男女も関係なく政治に参加し、卑弥呼を“王”とした。それから数百年後の奈良時代、男性優位の法体系である「律令」を中国から取り入れたことにより“ジェンダー格差”が生じると、平安時代の清少納言は女性の社会的ポジションを「パッとしない」と書き残した──。

 日本における“男女”の区分の歴史を振り返った国立歴史民俗博物館(千葉・佐倉市)の企画展示『性差〈ジェンダー〉の日本史』(12月6日まで)が注目を集めている。古代から現代に至るまでの、性差に関する歴史が、多くの史料によって紐解かれているのだ。

「技術の革新」「国の方針」が「良妻賢母」を生み出す後押しをした

「家のことは女がやる」この考えが出てきたのは、近代に入ってからだ。専修大学文学部准教授で「性差の日本史の展示プロジェクト委員の廣川和花さんが解説する。

「明治前期に戸籍や法律婚などが整備され、その後、民法が公布されました。近世までの子育ては、村落共同体や親族など親以外も積極的にかかわるものでしたが、明治期の政策で『家族』というモデルがつくられて、子供を産み育てる責任を個々の家庭に背負わせることになりました。それによって、母親が子供の健康や教育を担うようになっていきました」(廣川さん・以下同)

 一方で近代化を進める日本において、女性と子供は貴重な労働力でもあった。都市でも地方でも女性は生業も含めて労働に従事しており、工場労働者の男女比において、1920年代までは女性が男性を上回ったほどだ。

 当時の主要なエネルギー源である石炭の採掘でも、女性労働者が活躍した。

 特に女性坑内労働者(女坑夫)が多かった筑豊炭鉱(福岡)では、夫がツルハシで石炭を掘り、妻が石炭を搬出する夫婦共稼ぎが一般的だった。

「山本作兵衛画文」には、家族が一丸となって炭鉱労働に勤しむ姿が描かれている。子供も労働力の1人で、子守りのために入坑する息子は学校が長期欠席扱いになるという、いまでは考えられないエピソードが残っている。

 この頃、米ワシントンで開催された国際労働会議(1919年)では女性や子供の労働者を保護する方針が固まり、1928年の「鉱夫労役扶助規則」改正によって女性の坑内労働は禁じられた。さらに、技術の発展(イノベーション)が、「妻女の天職は子供の教育」という国の主張を後押しし、女坑夫を家庭に向かわせた。

「運搬を機械化するイノベーションが進んだことで石炭を搬出するという妻の役割だった業務が不要になり、女性の坑内労働禁止を後押ししました。女性が坑内に入らなくなると炭坑の託児所が廃止され、女性が家庭で内職をしながら育児を担うようになりました」

関連記事

トピックス

米利休氏のTikTok「保証年収15万円」
東大卒でも〈年収15万円〉…廃業寸前ギリギリ米農家のリアルとは《寄せられた「月収ではなくて?」「もっとマシなウソをつけ」の声に反論》
NEWSポストセブン
埼玉では歩かずに立ち止まることを義務づける条例まで施行されたエスカレーター…トラブルが起きやすい事情とは(時事通信フォト)
万博で再燃の「エスカレーター片側空け」問題から何を学ぶか
NEWSポストセブン
趣里と父親である水谷豊
《趣里が結婚発表へ》父の水谷豊は“一切干渉しない”スタンス、愛情溢れる娘と設立した「新会社」の存在
NEWSポストセブン
SNS上で「ドバイ案件」が大騒動になっている(時事通信フォト)
《ドバイ“ヤギ案件”騒動の背景》美女や関係者が証言する「砂漠のテントで女性10人と性的パーティー」「5万米ドルで歯を抜かれたり、殴られたり」
NEWSポストセブン
事業仕分けで蓮舫行政刷新担当大臣(当時)と親しげに会話する玉木氏(2010年10月撮影:小川裕夫)
《キョロ充からリア充へ?》玉木雄一郎代表、国民民主党躍進の背景に「なぜか目立つところにいる天性の才能」
NEWSポストセブン
“赤西軍団”と呼ばれる同年代グループ(2024年10月撮影)
《赤西仁と広瀬アリスの交際》2人を結びつけた“軍団”の結束「飲み友の山田孝之、松本潤が共通の知人」出会って3か月でペアリングの意気投合ぶり
NEWSポストセブン
米利休氏とじいちゃん(米利休氏が立ち上げたブランド「利休宝園」サイトより)
「続ければ続けるほど赤字」とわかっていても“1998年生まれ東大卒”が“じいちゃんの赤字米農家”を継いだワケ《深刻な後継者不足問題》
NEWSポストセブン
田村容疑者のSNSのカバー画像
《目玉が入ったビンへの言葉がカギに》田村瑠奈の母・浩子被告、眼球見せられ「すごいね。」に有罪判決、裁判長が諭した“母親としての在り方”【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
アメリカから帰国後した白井秀征容疑(時事通信フォト)
「ガイコツが真っ黒こげで…こんな残虐なこと、人間じゃない」岡崎彩咲陽さんの遺体にあった“異常な形跡”と白井秀征容疑者が母親と交わした“不穏なメッセージ” 〈押し入れ開けた?〉【川崎ストーカー死体遺棄】
NEWSポストセブン
赤西と元妻・黒木メイサ
《赤西仁と広瀬アリスの左手薬指にペアリング》沈黙の黒木メイサと電撃離婚から約1年半、元妻がSNSで吐露していた「哺乳瓶洗いながら泣いた」過去
NEWSポストセブン
元交際相手の白井秀征容疑者からはおびただしい数の着信が_(本人SNS/親族提供)
《川崎ストーカー死体遺棄》「おばちゃん、ヒデが家の近くにいるから怖い。すぐに来て」20歳被害女性の親族が証言する白井秀征容疑者(27)の“あまりに執念深いストーカー行為”
NEWSポストセブン
不倫疑惑が報じられた田中圭と永野芽郁
《永野芽郁のほっぺたを両手で包み…》田中圭 仲間の前でも「めい、めい」と呼ぶ“近すぎ距離感” バーで目撃されていた「だからさぁ、あれはさ!」
NEWSポストセブン