臨床心理士・経営心理コンサルタントの岡村美奈さんが、気になったニュースや著名人をピックアップ。心理士の視点から、今起きている出来事の背景や人々の心理状態を分析する。今回は、一向に「負け」を認めないドナルド・トランプ米大統領について。
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米大統領選で勝利を確実にした民主党のジョー・バイデン前副大統領は11月10日、敗北を認めないトランプ氏について「率直に言って、恥ずかしいことだ」と記者会見で述べた。機密情報などの政権移行のためのブリーフィングも十分に受けておらず、トランプ氏だけではなくポンペオ国務長官も同日、「2期目のトランプ政権に向けた円滑な移行があるだろう」と発言し、バイデン氏の勝利を拒否している。
トランプ氏が潔く敗北を認めないのはなぜか。メディアはその理由を大きく2つに分けて分析している。1つはトランプ氏が持つ大統領としての特権だ。簡単にこれを手放すわけにはいかないという。
トランプ氏には、2016年と2017年の2年間で納税がわずか760ドル(8万円弱)という脱税をはじめ数々の疑惑が浮上しており、桁違いの負債を抱え破産の可能性も指摘されている。大統領特権により、これまで疑惑に直面せずやってこれたが、立場を失えば免責の無い一般市民だ。借金や負債の返済も大統領でなくなれば待ってくれない。
もう1つの理由は、米国をさらなる分断に追い込んでいることだ。トランプ氏は、今回の大統領選で現職大統領として最多得票数である7100万票を獲得した。バイデン氏も7500万票と史上最多の得票数を獲得しているが、現実には今回の投票者の半数近くがトランプ氏に投票したことになる。この支持者らにバイデン氏の勝利を納得させるためにも、簡単には引き下がれないという理由があるらしい。
郵便投票の開票結果が進むにつれ、優勢だった州で次々と逆転されたトランプ氏は、Twitterを駆使して票の集計プロセスなどでさまざまな不正が行われていると訴え続けた。Twitter側は、このツイートに注意喚起のラベルを付け非表示としたが、彼の言い分に呼応した支持者らの中で「エコーチェンバー現象」が起きた。そのため対立が加速し、抗議デモや暴動が各地で勃発したのだ。