お笑いの世界は“男社会”だが、そんな中で1970年代から、なぜ上沼恵美子は絶大な人気を誇ったのか。その芸を見てきたオール巨人が語る。
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芸人人生の中で、僕がこの人は天才やな~と思った人物は3人いまして。先輩の上岡竜太郎さん、同期の紳ちゃん(島田紳助)、そして、上沼恵美子さん。上沼さんは中学卒業と同時に漫才コンビ「海原千里・万里」の海原千里としてデビューしているんですけど、そのときから漫才がめちゃくちゃうまかった。しかも、すっごいかわいくてね。大阪では、アイドル並みの人気だったんです。僕も大ファンで、デビュー前だったので、上沼さんが所属する事務所に入りたいと思ったくらい。
歌も抜群にうまい。昔、『ザ・ベストテン』という漫才があって、順位を発表しながらモノマネをするわけです。山口百恵さんだったら、山口百恵さんの真似をして歌いはる。それがよう似てるし、本人を誇張しながら笑いを取るのがおもろかったなぁ。
また、トークがすごいでしょう。昔、NHKのバラエティー番組『生活笑百科』に一緒に出ていたことがあるんです。当時、上沼さんは、ラジオの仕事を終えて、ギリギリでスタジオ入りしていました。リハーサルはまったくなし。他の出演者はその前にちゃんと打ち合わせをしているのに、何にもしてない上沼さんがいちばんおもしろい。上沼さんの定番ですけど、「私、大阪に別荘を持ってますねん」っていう冗談があるんです。「ちょっと広いから掃除はダスキンに頼んでるんです。大阪城って、みなさん、ご存じでしょう。あれ、うちのもんやねん」と。お客さん、大爆笑ですから。
最近は僕と一緒に『M-1グランプリ』の審査員をやっているので、上沼さんの存在が今まで以上に知れ渡るようになりました。毎年、必ず上沼さんに酷評される芸人がいて、僕はよう知らんけど、ファンの間では「上沼怒られ枠」と呼ばれているそうです。厳し過ぎるという向きもあるようですが、関西の人からしたら、いつもの上沼さん。歯に衣着せぬというか、忖度は一切なし。関西の人間は、そんな上沼さんが好きなんです。