10月24日、東京・かつしかシンフォニーヒルズでピアノ公演を無事に終了した女優兼ミュージシャンの松下奈緒(35)は、ホッとしたような安堵の表情を浮かべていた。某テレビ番組で「私服はほとんどスカート」と語っていた松下だが、この日はパンツ姿にアディダスのスニーカーを合わせたアクティヴなファッションを披露。センス際立つブルーのジャケットも魅力的だ。それにしても、女優業と音楽業を両立させる彼女の才能には目をみはるものがある。
2004年に連続ドラマ『仔犬のワルツ』(日本テレビ系)で女優として華々しくデビューを飾った松下。この時演じたのは天才ピアニスト役で、劇中でも自らピアノ演奏をこなしていた。というのも、彼女は幼少期よりピアノに親しみ、高校卒業後は音楽大学のピアノ専攻へと進学した経歴の持ち主でもあるのだ。2年後にはデビュー・アルバム『dolce』もリリースしている。
お茶の間で松下の活躍が知られるようになったのは、2010年に放送されたNHK連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』で主演を務めたことがきっかけだろう。漫画家・水木しげるの妻である武良布枝をモデルとした松下の役は評判を呼び、一時期、同作は社会現象と呼べるほどのブームを巻き起こした。
ドラマの主題歌は人気グループ・いきものがかりが手がけた「ありがとう」だったが、同年9月放送の『NHK歌謡コンサート』では松下がピアノ伴奏を担当。自身のベスト・アルバム『Scene25 ~Best of Nao Matsushita』にも「ありがとう」のピアノ・バージョンが収録されているほか、のちにコンサートでもたびたび演奏するようになる。
その後も女優として数々のテレビドラマや映画で活躍する一方、音楽活動も精力的に続け、これまでに7枚のアルバムを発表した。とりわけ昨年リリースされた『Synchro』では、クラブジャズのミュージシャンとして知られる野崎良太(Jazztronik)やジャズロックバンドfox capture planとのコラボレーションを果たし、ライブハウスに通うような音楽ファンの間でも話題を呼んだ。
レディ・ガガとの共通点
こうした女優業と音楽業の両立は、彼女の活動にどんな相乗効果をもたらしているのだろうか。映画評論家で芸能ライターの田辺ユウキ氏は「やはり役者としてメリットが非常に大きいと思います」と指摘する。
「音楽を題材にした映画やドラマはたくさんありますが、演奏者役って実は非常に難しいんです。なぜなら、キャラクターの生い立ちや生活背景などが演奏にあらわれるからです。
映画やドラマでは、『こういったパーソナリティを持っている人は、こういう音の出し方、弾き方をするだろう』ということが、観ていて伝わるように描かれています。ピアノでもギターでも、誰にどのように教わるかで弾き方が全然違いますよね。それを突き詰めてキャラクターを探れば、たとえば幼少期の過ごし方、親との関係、友人関係などバックボーンにつながっていきます。
近年、ひとつの好例は映画『アリー/スター誕生』でしょうか。レディ・ガガ演じるヒロインの成長劇は、ガガの実際のサクセスストーリーと重なるところがありました。彼女自身も自分とシンクロさせながら演じていたと思いますが、実感を持って役になりきれたからこそ、観る者にも生々しい感触を与えるのです」(田辺氏)