ブラジル国家衛生監督庁は11月9日、中国の科興控股生物技術(シノバック・バイオテック)が開発中の新型コロナウイルスのワクチン治験について「深刻な事態」があったとして中断したと発表した。その「深刻な事態」とは「治験者が10月29日に死亡した」ことだったが、死因が自殺だったことが発覚。中断決定2日後の11日、同監督庁は治験再開を指示した。
この決定をめぐって、BBC放送は「今回の決定は、次期ブラジル大統領選をめぐる現職の大統領とサンパウロ州知事との政争が影響している」と報じている。
このワクチンはシノバックとサンパウロのブタンタン研究所が提携して開発しているもので、研究所は今年7月、同監督庁の許可を得て、治験を開始。9月にはボランティアの数が9000人から1万3000人に拡大していた。
「深刻な事態」について、研究所サイドは「死亡と治験との関係はない」と主張していたが、ネット上では「恐れていたことが起きた。新薬の安全性は十分重視すべきで、中断して正解だ」との意見もあった。一方で、「新薬の治験での死亡事故は交通事故と同じで、わずかな確率だ。突発的なものだ」、「これで、中国を目の敵にしている西側のメディアが大騒ぎするだろう」との相反したコメントも投稿されていた。
多くのメディアが「深刻な事態」を報道していたものの、治験者の死因が自殺だったことが判明。同監督庁は治験中断を決定した際、被験者の死因を知らされていなかったと説明し、必ずしも検証中の製品に品質や安全性、有効性がないことを意味するものではないとして、治験の再開を許可している。
このように同監督庁の決定が急転した原因について、BBCは南米特派員のリポートとして、「ブラジルでは新型コロナウイルス問題が非常に政治化しており、ブラジル国家衛生監督庁の決定が科学的か政治的かについても、多くの人が疑問を抱いている」と報じている。