トランプ大統領の籠城が続いている。同氏の姪で、告発本『世界で最も危険な男』を上梓した臨床心理学者のメアリー・トランプ氏は同書のなかで、「今日のドナルドは、三歳のときと変わらない。成長したり、学んだり、進化したりすることは見込めず、感情をコントロールすることも、反応を抑制することも、情報を取り入れてそれをまとめることもできない」と分析した。今のトランプ氏を見ていると、まさにそうした状態に陥っているように見えてくる。ニューヨーク在住ジャーナリスト・佐藤則男氏は、それを許しているのは共和党の政治的堕落だと指摘する。
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ワシントンでトランプ支持派の大規模なデモが行われた。なかには防弾チョッキで武装した過激な集団も見られたが、過激派のデモというよりは、トランプ氏の主張に沿って、「バイデン氏と民主党は不正な選挙によって勝った」と訴える比較的穏健なグループのように見えた。このあたりは日本の報道は少し大袈裟とも思う。
しかし、いただけなかったのは、ホワイトハウスに籠城を続けているトランプ氏が、車列を連ねてデモ会場に現れたことだ。車中からデモ隊に親指を立てて見せ、感謝の気持ちを表した。もちろんデモ隊は熱狂したが、いったい誰がこのような演出を考えたのか。コロナ感染が過去最大級に広がっているさなかに、それを防ぐ仕事を何もせず、マスクもしないで集まるデモ隊を応援し、自分が登場することでさらに「密」な状態を作り出して、本当に国のリーダーとして胸を張れるのか。
この行動を、いつものトランプ氏だと見ることもできるかもしれない。が、筆者は小さな変化と危うさを感じたのである。ホワイトハウスに籠ってすでに8日、トランプ氏は側近たちとも距離をおき、もっぱら家族とばかり会っているのではないかと感じるからだ。政治や行政のプロであれば、支持派のデモを歓迎するとしても、あんな演出はしなかったはずだ。最近のTwitter投稿にしても、きちんとしたアドバイザーがいないようで、バイデン氏の勝利を認めるようなことを書いたりして、混乱していることがうかがえる。
余談だが、筆者はトランプ氏の最初の夫人であるイヴィナ氏のタウンハウスを訪ねたことがある。その内装に驚いた。金と真っ赤で統一され、宮殿のような派手な部屋だった。これは、テレビなどでも見たことのあるトランプ一家の趣味である。ホワイトハウスの、トランプ趣味に飾られたプライベートスペースで、家族とだけ話して次の行動を決めている大統領の姿を想像すると恐ろしくなる。その傍らには核ミサイルのボタンが納められたスーツケースが置かれているのである。