【著者に訊け】
凪良ゆうさん/『滅びの前のシャングリラ』/中央公論新社/1550円
【本の内容】
〈「おーい、なんか地球滅亡するんだって」〉。SNSで、テレビで、「小惑星が衝突し、地球が滅びる」というニュースが衝撃をもって広がっていく。この世の終わりに、ままならない時間を過ごす4人―高校でいじめを受ける友樹、その母・静香、ヤクザの信士、時代の歌姫・Locoの人生もまた急転回していく。荒廃する街と人、その中で彼らの人生に果たして光は射すのか。
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あと1か月したら小惑星が衝突し、地球は滅ぶ。そんな極限状況で、うまく生きてこられなかった4人の男女が、それでも懸命に希望の光を探す物語だ。
「1999年7の月に人類は滅亡する『ノストラダムスの大予言』、日本の子どもには生まれたときから大設定がありましたよね。私も、いつか終末ものを書いてみたいとずっと思っていました。だけど自分が書くとしたら、ヒーローが地球を救う結末には絶対ならないし、書くには覚悟と技量が必要だと思ってそのまま眠らせていました。この話を受け止めてくれる編集者に出会えて、ようやく書き始めたのが去年の夏のことです」
書き終えたのは今年2月。新型コロナウイルス禍が徐々に深刻になってくる時期だった。
「緊急事態宣言が出たあとで、世の中は暗いニュース一色になって。傷つく人もいるかもしれないし、いま人類滅亡の話を出すのはどうなんだろうと迷いました。でも編集者が、この時期だからこそ出しましょう、滅びるだけの話じゃなく希望に向かう話でもあるからと背中を押してくれました」
いじめに遭っている17歳の友樹、ヤクザの信士、友樹の母静香、歌姫のLoco。視点人物が章ごとに変わり、それぞれの関係性が浮かび上がる。音楽好きの凪良さんは、人物ごとにプレイリストをつくって執筆するそうだ。
「信士みたいなキャラクターを書いたことがなくて、『仁義なき戦い』のテーマにすごく助けてもらいました。静香は絶対、椎名林檎が合うと思ったけど、意外にもクラシックがしっくりきました」
滅ぶとわかった人間の、無秩序で歯止めのない崩壊ぶりをしっかり描きつつ、本屋大賞を受賞した『流浪の月』でもそうだったように、ひとりの人物を多面的にとらえ、あたたかいまなざしを向ける。
「私自身、幼いころ人間の醜い部分も見せられて、法律に効力がなくなるとケモノ化する人は多いんじゃないかと考えます。それでも最後まで希望を捨てないのもまた、人間なんですよね。もし本当に地球が滅亡するとしたら? こんな本を書いておきながら、その時にならないと自分でもどう行動するかわからない気がします」
【プロフィール】
凪良ゆう(なぎら・ゆう)/滋賀県生まれ。2006年、「小説花丸」に「恋するエゴイスト」が掲載され作家デビュー。以降、BL(ボーイズラブ)作品を多数刊行。2017年、非BL作品である『神さまのビオトープ』を刊行し注目を集める。2019年に刊行した『流浪の月』は2020年本屋大賞を受賞。続く『わたしの美しい庭』は山田風太郎賞の候補になった。
取材・構成/佐久間文子
※女性セブン2020年11月26日号