次期大統領であるバイデン氏の陰が薄い。トランプ氏が敗北を認めないという異常事態が注目を集めているからだけではない。トランプ時代も地獄、バイデン時代になっても地獄というアメリカの苦悩を、ニューヨーク在住ジャーナリスト・佐藤則男氏がリポートする。
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アメリカが独裁国家でないなら、トランプ大統領は選挙結果を受け入れるべきだ。政権の引き継ぎを拒否して国の安全や国民の命をないがしろにすることなど言語道断である。少なくとも、反トランプの国民と、中立の無党派層のほとんどはそう考えている。
アメリカのコロナ死者は25万人を超えた。もはや国難であり、与党も野党もなく挙国一致政権を築いて対処しなければならない緊急事態だ。しかし、現実はそれとは程遠く、共和党とトランプ支持者たちは、いまだにバイデン氏を次期大統領(President-Elect)とさえ呼ばず、バイデン氏のほうも、遠くからトランプ氏の態度を批判するだけで、国家的な危機をどれだけ真剣に受け止めているのか伝わってこない。
すでにNEWSポストセブンでリポートした通り、共和党は、1月に行われるジョージア州の上院決選投票に、天才的な選挙参謀として知られるカール・ローブ氏を起用する。ローブ氏の手法は国民を左右真っ二つに割り、対立を煽って中間層を味方につけるというものだ。2000年代前半のブッシュ(子)政権でそれを確立し、共和党が踏襲してきたやり方である。国民の分断を進めるトランプ氏も、実は前代未聞の大統領というわけではなく、ローブ氏の戦術をさらに過激にしたにすぎないとも言える。
そして、その影響は野党だった民主党にも及んだ。バイデン氏は民主党のなかでは中道寄りの穏健派だが、民主党全体を見れば、かつてなく「左寄り」に傾いている。トランプ氏が極端な右寄りの政策や言動を見せれば見せるほど、民主党のなかでは極端な左派が力を増してきたのである。「中道ではトランプを倒せない」という危機感が働くからだ。
今回の大統領選挙で、バイデン氏は当初、民主党の予備選でも苦戦した。その代わり、極端な左派で社会主義者を自任するバーニー・サンダース氏やエリザベス・ウォーレン氏がリードしたのである。それを見て慌てたのが民主党の黒幕たちだ。いくらなんでも民主党を社会主義政党にすることは党の衰退につながるから、予備選の裏で党内の談合を進め、サンダース氏やウォーレン氏を選挙戦から撤退させる見返りに、バイデン氏には、彼らをバイデン政権で重用するよう条件を出したとされる。