【著者に訊け】
宇佐見りんさん/『推し、燃ゆ』/河出書房新社/1400円
【本の内容】
主人公のあかりは高校生。アイドルグループ「まざま座」の上野真幸くんを推している。学校、母、姉との関係がぎくしゃくする中で、コンサートに通い、グッズを買い集め、そのためにアルバイトもがんばっていた。ところが、真幸くんがファンを殴って炎上する。あかりはどうなってしまうのか? 10代、20代の子供を持つ親世代にもおすすめの小説。
アイドルを追いかけているファンは、こんなにも切実な思いを抱えているのか。時間とお金を惜しみなく「推し」に注ぎ込み、ファンという一点でつながる仲間とSNSで交流する。
同じCDを何十枚も買う人たちの必死さを、この小説は一気に身近なものにしてくれる。
「趣味の一環としてとらえられがちで、誰々のファンなんだよね、と気軽に言う人も多いんですけど、部活に人生をかけている人がいるように、推すことを自分の〈背骨〉と考えている人がいる。その熱量を書きたいと思いました」
と宇佐見りんさんは語る。自身も推している俳優がいるから、ファンの行動や気持ちの細部にリアリティーがこもる。「ファンの人たちへの見方が変わった」と言われるのがうれしい。
主人公のあかりは推しの情報を集めて人と作品を解釈し、推しの見る世界を見ようとする。ファン同士のSNSでは賢いお姉さんと見られているが、学校や家族との関係はうまくいかない。
「推しのからむことに対しては、あかりは一番心を開いた状態でいられる。それ以外の場面とは描写の仕方を変えてギャップを書きました。いつもは淡々としていて家族とのかかわり方も他人事みたいな態度で母や姉をいらつかせるんですけど、推しに関する場面ではいきなり解像度が上がって、生きることに積極的になるんです」
宇佐見さんはまだ21歳だが、小説はもう10年以上書き続けている。
「小説に向き合っている時間は、ほかの雑多なものを全部忘れます。今は大学の課題で忙しいので、すき間時間に書いています。書く時間がないと辛いですね。ストレスがたまるかもしれません」
デビュー作『かか』は文藝賞、三島由紀夫賞をW受賞して脚光を浴びた。書いた作品が出版される環境に変わっても小説と自分との関係は変わらず、書くことを楽しんでいる。将来は専業の小説家に?
「就活はまだしてないんです。小説と生活は両輪だと考えています。生活を回していくことで小説になって、バランスをとっているような気がするので、今はいろいろな経験をしたいと思っています」
若さと才能がみなぎる、新しい「推し」小説の誕生だ。
取材・構成/仲宇佐ゆり
※女性セブン2020年12月3日