ライフ

趣味ではなく背骨 21才宇佐見りんが「推すこと」を描く小説

宇佐美りん

『推し、燃ゆ』著者の宇佐美りんさん

【著者に訊け】
宇佐見りんさん/『推し、燃ゆ』/河出書房新社/1400円

【本の内容】
 主人公のあかりは高校生。アイドルグループ「まざま座」の上野真幸くんを推している。学校、母、姉との関係がぎくしゃくする中で、コンサートに通い、グッズを買い集め、そのためにアルバイトもがんばっていた。ところが、真幸くんがファンを殴って炎上する。あかりはどうなってしまうのか? 10代、20代の子供を持つ親世代にもおすすめの小説。

 アイドルを追いかけているファンは、こんなにも切実な思いを抱えているのか。時間とお金を惜しみなく「推し」に注ぎ込み、ファンという一点でつながる仲間とSNSで交流する。

 同じCDを何十枚も買う人たちの必死さを、この小説は一気に身近なものにしてくれる。

「趣味の一環としてとらえられがちで、誰々のファンなんだよね、と気軽に言う人も多いんですけど、部活に人生をかけている人がいるように、推すことを自分の〈背骨〉と考えている人がいる。その熱量を書きたいと思いました」

 と宇佐見りんさんは語る。自身も推している俳優がいるから、ファンの行動や気持ちの細部にリアリティーがこもる。「ファンの人たちへの見方が変わった」と言われるのがうれしい。

 主人公のあかりは推しの情報を集めて人と作品を解釈し、推しの見る世界を見ようとする。ファン同士のSNSでは賢いお姉さんと見られているが、学校や家族との関係はうまくいかない。

「推しのからむことに対しては、あかりは一番心を開いた状態でいられる。それ以外の場面とは描写の仕方を変えてギャップを書きました。いつもは淡々としていて家族とのかかわり方も他人事みたいな態度で母や姉をいらつかせるんですけど、推しに関する場面ではいきなり解像度が上がって、生きることに積極的になるんです」

 宇佐見さんはまだ21歳だが、小説はもう10年以上書き続けている。

「小説に向き合っている時間は、ほかの雑多なものを全部忘れます。今は大学の課題で忙しいので、すき間時間に書いています。書く時間がないと辛いですね。ストレスがたまるかもしれません」

 デビュー作『かか』は文藝賞、三島由紀夫賞をW受賞して脚光を浴びた。書いた作品が出版される環境に変わっても小説と自分との関係は変わらず、書くことを楽しんでいる。将来は専業の小説家に?

「就活はまだしてないんです。小説と生活は両輪だと考えています。生活を回していくことで小説になって、バランスをとっているような気がするので、今はいろいろな経験をしたいと思っています」

 若さと才能がみなぎる、新しい「推し」小説の誕生だ。

取材・構成/仲宇佐ゆり

※女性セブン2020年12月3日

関連記事

トピックス

SNSで出回る“セルフレジに硬貨を大量投入”動画(写真/イメージマート)
《コンビニ・イオン・スシローなどで撮影》セルフレジに“硬貨を大量投入”動画がSNSで出回る 悪ふざけなら「偽計業務妨害罪に該当する可能性がある」と弁護士が指摘 
NEWSポストセブン
女優の広末涼子容疑者が傷害容疑で現行犯逮捕された(左/時事通信フォト)
広末涼子の父親「話すことはありません…」 ふるさと・高知の地元住民からも落胆の声「朝ドラ『あんぱん』に水を差された」
NEWSポストセブン
筑波大学の入学式に出席された悠仁さま(撮影/JMPA)
悠仁さま、入学式で隣にいた新入生は筑附の同級生 少なくとも2人のクラスメートが筑波大学に進学、信頼できるご学友とともに充実した大学生活へ
女性セブン
漫画家・柳井嵩の母親・登美子役を演じる松嶋菜々子/(C)NHK 連続テレビ小説『あんぱん』(NHK総合) 毎週月~土曜 午前8時~8時15分ほかにて放送中
松嶋菜々子、朝ドラ『あんぱん』の母親役に高いモチベーション 脚本は出世作『やまとなでしこ』の中園ミホ氏“闇を感じさせる役”は真骨頂
週刊ポスト
都内にある広末涼子容疑者の自宅に、静岡県警の家宅捜査が入った
《ガサ入れでミカン箱大の押収品》広末涼子の同乗マネが重傷で捜索令状は「危険運転致傷」容疑…「懲役12年以下」の重い罰則も 広末は事故前に“多くの処方薬を服用”と発信
NEWSポストセブン
『Mr.サンデー』(フジテレビ系)で発言した内容が炎上している元フジテレビアナウンサーでジャーナリストの長野智子氏(事務所HPより)
《「嫌だったら行かない」で炎上》元フジテレビ長野智子氏、一部からは擁護の声も バラエティアナとして活躍後は報道キャスターに転身「女・久米宏」「現場主義で熱心な取材ぶり」との評価
NEWSポストセブン
人気のお花見スポット・代々木公園で花見客を困らせる出来事が…(左/時事通信フォト)
《代々木公園花見“トイレ男女比問題”》「男性だけずるい」「40分近くも待たされました…」と女性客から怒りの声 運営事務所は「男性は立小便をされてしまう等の課題」
NEWSポストセブン
元SMAPの中居正広氏(52)に続いて、「とんねるず」石橋貴明(63)もテレビから消えてしまうのか──
《石橋貴明に“下半身露出”報道》中居正広トラブルに顔を隠して「いやあ…ダメダメ…」フジ第三者委が「重大な類似事案」と位置付けた理由
NEWSポストセブン
小笠原諸島の硫黄島をご訪問された天皇皇后両陛下(2025年4月。写真/JMPA)
《31年前との“リンク”》皇后雅子さまが硫黄島をご訪問 お召しの「ネイビー×白」のバイカラーセットアップは美智子さまとよく似た装い 
NEWSポストセブン
異例のツーショット写真が話題の大谷翔平(写真/Getty Images)
大谷翔平、“異例のツーショット写真”が話題 投稿したのは山火事で自宅が全焼したサッカー界注目の14才少女、女性アスリートとして真美子夫人と重なる姿
女性セブン
フジテレビの第三者委員会からヒアリングの打診があった石橋貴明
《中居氏とも密接関係》「“下半身露出”は石橋貴明」報道でフジ以外にも広がる波紋 正月のテレ朝『スポーツ王』放送は早くもピンチか
NEWSポストセブン
女優の広末涼子容疑者が傷害容疑で現行犯逮捕された
〈不倫騒動後の復帰主演映画の撮影中だった〉広末涼子が事故直前に撮影現場で浴びせていた「罵声」 関係者が証言
NEWSポストセブン