一年を締めくくり、清々しい気分で新年を迎えるための大掃除。しかし掃除中の事故が断トツに多くなるのも大掃除を行う12月。救急搬送される半数以上を60~80代の高齢者が占めるという。年を取って大掛かりな作業が難しくなっても、長年の習慣が無理をさせるのかもしれない。
老親宅の大掃除をどうするか、そろそろ考える時期だ。自身も実母と同居して見守り、高齢者の家事について一家言を持つ家事研究家・高橋ゆきさんに聞いた。
老親が本当に心地よい暮らしの場とは……
5年前に難病を患い、一時は寝たきりになった実母を自宅に迎えて、仕事のかたわら、食事療法と在宅リハビリを支え続けた高橋さん。その甲斐あって、いまではひとりで歩いて簡単な家事もこなせるまでに回復したそうだ。この経験から、生きる力のすごさ、介護家族の苦悩、そして住まう空間づくりの大切さを身に染みて思い知ったという。
「特に高齢者にとって心地よい空間づくりのテーマが2つあります。1つは“生活のリズム”。たとえば私の母なら定時に薬をのみ、愛用の器でお茶を飲み、友達と電話をしたり、テレビを見たり。一緒に暮らす家族のリズムとは別に、母のリズムがあります。
もう1つは“暮らしの彩り”。これは暮らす人の意思で取り入れるもの。好きな絵画や花、音楽。時には習慣でイスの背に膝掛けやセーターを無造作に掛けた、そんな風景に愛着を感じることも。リズムが乱されないこと、心豊かになる彩りがあることが大事なのです」
“心地よい空間”というと、物が少なくスッキリと整頓されたモデルルームのようなところを想像しがちだ。大掃除もそんな空間を目標にして、物を排除したり磨き上げたりに終始する。物や生活感のない心地よさも確かにあるが、高齢者にはあまりなじまないと高橋さんは言う。
「周りからもよく聞きますが、高齢者の周囲には物がいっぱい。なぜか同じような物をたくさんため込みますね。代表的なのはポケットティッシュや紙袋、衣類や小物も。子供世代には不要物ばかりが散らかっているように見え、捨てた方が気分よく生活できるように思ってしまう。
でも彼らは多少不自由も出てきた行動範囲の中で、生活のリズムや心の豊かさを支える物に囲まれた、その風景に安心を感じているのです。大事なテリトリー。むやみに捨てたりしない方がいい。
大掃除は家中をくまなく一掃するイメージですが、高齢者の家は全部やらなくていい。むしろ老親が主体で“掃除したいところだけ”という考え方でよいのです。家族が手伝う場合も、老親のテリトリーをよく見極め、そこは現状維持をするよう心に留めておきましょう」
【プロフィール】
高橋ゆき/1999年、夫とともに家事代行サービスのベアーズを創業。人気ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)、『極主夫道』(日本テレビ系)の家事監修ほかメディアでも幅広く活躍中。近著に『ズボラさんでも暮らしが整う楽ラク家事』(主婦の友社刊)。
取材・文/斉藤直子
※女性セブン2020年12月10日号