三冠馬3頭が揃う歴史的なレース、第40回ジャパンカップにキセキを出走させる角居勝彦調教師。現役最多のGI38勝(中央、地方、海外)を誇る角居師だが、家業である天理教の仕事に就くため2021年2月で引退、角居厩舎は解散となる。調教師生活20年、厩務員として栗東トレセンに来てから34年、北海道のグランド牧場で初めて馬に触れてから40年。角居師は自身のホースマン人生の集大成として『さらば愛しき競馬』を上梓した。引退まで残る競馬開催は13週、NEWSポストセブンでは金曜夜配信で角居師のカウントダウンコラム(全13回)を配信する。
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調教師として通年を過ごす最後の年が、歴史的に大きく記憶される1年となってしまいました。競馬が中止になる可能性もあったわけで、結果的に厩舎の解散が早くなってしまうことも覚悟しました。
しかし、多くの業界が停滞するなか、競馬はコロナに負けませんでした。無観客という事態になっても、ファンの方々が面倒な手続きを経て即PAT会員などになり、ネット投票をしてくれたおかげです。結果売上は落ち込むことはなく、昨年を上回るGⅠレースもあったことに対しては心の底から感謝の気持ちでいっぱいです。
10月になって少しずつお客さんが入るようになり、パドックなどでは緊張するようになりますが、それも楽しいと思えるようになった。やはり競馬場が明るくなったような気がします。そういえば、ソワソワする馬も増えたかもしれません。
レース前のパドックなどで他の厩舎の馬が目に入ってくることがあります。それほど血統がいいわけでもないし、人気もないけれど、日常的に競走馬を見ているからこそ感じるものがある。そしてそういう馬がいい走りをすることがあります。もちろん、いつもいつもというわけではありませんが(笑)。
それはやはり40年間積み上げてきたものがあるからなのでしょう。引退するにあたって、競馬場に入れないにもかかわらず競馬を支えてくれたファンの方々に恩返しができないだろうかと考えて、自分の思うところを一冊の本にまとめてみました。競馬に使う側の考え方や方法論を知ることで、馬券検討の役に立つこともあると思います。
さらに、馬券を買うだけではなく、パドックでの所作や返し馬の特徴ある動きが、馬にとってどういう意味があるのかまでわかるようになると、競馬はもっともっと面白くなります。本来、馬は競走とは無縁なはず。それでも人間と共に生きているのだと思えるようになってくると、馬という動物が愛しくてしょうがなくなります。
さて、今年は牡牝とも無敗の三冠馬が誕生するという競馬史上初のトピックスがありました。今週のジャパンカップでは、その2頭が対決します。それだけでもすごいことなのに、先日の天皇賞(秋)で芝GⅠ最多の8勝目をあげた一昨年の三冠馬アーモンドアイも出走するというのです。
3強対決というのは過去にもありましたが、これだけの実績を持った馬が顔を合わせるのは初めてですし、これからもあるかどうか。競馬メディアを超えて、早くから盛り上がりを見せています。
そのレースに角居厩舎からもキセキを参戦させます。デビューからすでに25戦、うち20戦が重賞で、GⅠにも13回出走して2着が4回。勝ったのは菊花賞だけですが、故障が少なく、とにかくタフな馬です。
一昨年のジャパンカップでは、逃げて2分20秒台という時計を出しましたし、今年はしっかりタメて切れる脚を披露することもありました。さまざまなレースに対応できるようになってきたし、スタッフも経験を積んで手の内に入れてきた感があります。
3歳馬とは初対決ですし、昨年の有馬記念ではアーモンドアイにも先着している。京都大賞典では最後方でじっくりと構え、天皇賞(秋)では、正攻法の競馬をしました。近年、GⅠを勝つような馬は出走するレースを厳選するようになっていますが、キセキは使ってよくなるタイプ。この秋3走目、さらに経験を積んで円熟味を増しています。
●角居厩舎 今週の出走予定馬
11月29日(日)
阪神7R 3歳上2勝クラス シーリア 牝5 55吉田隼人
東京12R ジャパンカップ(GⅠ) キセキ 牡6 57浜中俊
【プロフィール】
角居勝彦(すみい・かつひこ)/1964年石川県生まれ。2000年に調教師免許を取得し、2001年に開業。以後19年間、中央でGI26勝、重賞計82勝を含む758勝(2020年11月22日現在)。最多勝利3回、最多賞金獲得5回など13のJRA賞を受賞。地方、海外を合わせたGI38勝は現役1位。デルタブルースでメルボルンカップ、シーザリオでアメリカンオークス、ヴィクトワールピサでドバイワールドカップを勝つなど海外でも活躍。引退馬のセカンドキャリア支援や障がい者乗馬など福祉活動にも尽力。管理馬は他にウオッカ、カネヒキリ、エピファネイア、ロジャーバローズなど。