『地雷震』『スカイハイ』『SIDOOH/士道』といった人気作品を世に送り出してきた漫画家・高橋ツトム氏。今年画業30周年を迎え、掲載誌、描き方、そして考え方のすべてを変えて新作を描き、挑戦を続ける高橋ツトム氏が褪せることのない情熱で語る思いとは──その胸の内に迫る。(文/輔老 心)
* * *
ペンを握る右腕には、年季の入った阪神タイガースの19番のリストバンドがはまっている。
「最初は真っ白だったのにインクが染み込んじゃって、すっかりビジターカラーの灰色になっちゃいました。俺、『月刊タイガース』の仕事は断ったことがないですよ。兵庫県の西宮生まれだから、阪神ファンになるのは当然なんでね」
そう笑って語るのは、漫画家・高橋ツトム55歳。画業30周年を迎えた。
デビュー以来、青年漫画誌を中心に、フィルムノワールかのごとくスタイリッシュな作品を発表し続けて人気を博した。ギタリストとしての別顔もあり、ロックバンドのような“アティテュード(態度)”で、怠惰な現実に拳を突き上げる音が聴こえるような作風。それが──齢50を過ぎたころから、スタイルを変化させた。2015~2016年に描かれた『残響』では、最終的にはアシスタントを使わずに、ひとりで0から10までを仕上げる新たな制作システムに。作家としての円熟期を迎えるにあたってどんな心境の変化があったのだろう。
「50を迎えたころに、また面白くなった。漫画家人生の終わりを考えたからだね。ああ、そうかそうか、あとどれだけ描けるんだろうと思ったんです。
なんとなく、このまま行ったら、頭の中で考えていることを、全部描かないで漫画家人生が終わるなあって。本当はもっと描きたいんですよ。頭の中ではもっと描けているんです。でも……漫画を作るのは土木作業があるからね。漫画ってのは、描いてから世に出るまで10日間。世界最速の表現のひとつだと思ってますけれど……設計だけは瞬時にできても”建てる”のには時間がかかる」