コロナ禍で経済が停滞する中、急成長する産直アプリがある。その名は「ポケットマルシェ(ポケマル)」。消費者はパソコンやスマホアプリを通して、新鮮な農作物や魚を生産者から直接購入することができる。ポケットマルシェの高橋博之代表は「日本の第一次産業を救いたい」という想いから、2016年にサービスを立ち上げた。
「今や日本の農業、漁業、畜産業は壊滅状態。生計を維持するのが難しく、廃業が増えています。ポケマルの目的は、消費者と生産者を直接つなぐこと。作り手の人柄に触れて、どう作っているのかを知れば、単純に安いものがいいとは思わない。“食”に対する新たな価値が生まれるのです」
学生からひとり暮らしのお年寄りまで幅広い年齢層が利用し、男女比は4対6。コロナ禍による巣ごもり需要を背景に、2月末で5万2000人だった登録者数は24万人に、取引量も5月のピーク時には20倍に急増した。
「自宅で過ごす機会が増えた結果、ポケマルで食材を取り寄せ、家での食事に時間をかける人が増えました。旅行に行けない代わりに、地方の野菜や魚を食べて旅行気分を味わう人もいらっしゃいます」(同前)
ポケマルには全国から3600の生産者が登録。生産者が自分で撮影した商品写真と情報をアプリにアップし、注文が入れば発送するという仕組みだ。生産者のひとりである「イチマン吉岡漁業部」の吉岡奨悟さん(31)は、北海道の噴火湾で代々漁師を営む。新たな販路を開拓しようとポケマルを始めたという。
「1匹1匹は新鮮な魚でも、同じ種類の魚がまとまって獲れないと、市場の卸値は1キロ数十円くらい。そんな鮮魚を“お楽しみセット”として販売したところ、逆に『いろいろ食べられて嬉しい』と言ってもらえた。コロナで卸値が下がった時期も、ポケマルの注文に支えられました」