菅義偉首相の並みいるブレーンの中で、ひとり異色の存在がいる。イギリス出身のデービッド・アトキンソン氏。観光立国から中小企業再編までを指南し、メディアには「菅首相はアトキンソン信者」とまで書かれている。その実、この2人の間には、複雑な人脈と利権が絡み合っていた。ノンフィクション作家の森功氏がレポートする。(文中敬称略)
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菅義偉政権で未来投資会議から「成長戦略会議」に名称が改められた有識者の諮問会議。経済ブレーンが集うそこには、デービッド・アトキンソン(55)もいる。
「2013年から始めた観光立国の仕組みづくりに際してアトキンソンさんの本を読み、感銘を受け、すぐに面会を申し込んだ。その後何度も会っている」
昨年、〈スペシャル対談 官房長官 菅義偉×小西美術工藝社社長 デービッド・アトキンソン──カギはIRとスキー場だ〉と題した『週刊東洋経済』9月7日号で菅自身がそう語った。インバウンドによる観光振興の仕掛け人が、アトキンソンだと官房長官時代の菅本人が言っている。
「ビザの規制緩和により海外旅行者を急増させた」
そう鼻息を荒くしてきただけに、インバウンド政策は譲れないのだろうか。このコロナ禍で首相になってなお、ウイルスの脅威を度外視して東京五輪開催を公言し、「2030年インバウンド6000万人」の大風呂敷を広げたままだ。ここへ来てさすがにGo Toキャンペーンなる無茶な政策は一時停止を余儀なくされたが、いまだインバウンドの目標は死守しようと必死なのである。
もっとも、首相ご自慢のインバウンド、その実、政策を提案したのはアトキンソンでも、菅本人でもない。
「菅総理の政策はすべてがどこかで誰かが言っていたものをあたかもご自身で考えついたかのように言っているだけ。インバウンドも、もとはといえば、旧民主党の前原誠司さん(現・国民民主党)が提案したものです」
ある官邸関係者はそう話す。実は私自身、前原にインバウンドの件を尋ねたことがある。こう話していた。
「私は(民主党政権時代の)国交大臣のとき、公共事業を減らそうと、コンクリートから人へ、という政策を打ち出し、国土交通省に成長戦略会議を立ち上げました。その5つの成長戦略テーマの中核がインバウンドでした。当時はまだ外国人観光客が年間600万人台でしたので、それを3000万、4000万と増やそうという構想を立てたのです。戦略会議には福田さんにもメンバーに加わってもらった」