人気コミック『鬼滅の刃』が子供から大人まで熱狂させている。関連グッズは溢れ、世はすっかり“鬼ブーム”だ。
舞台は大正時代の日本。「鬼」に家族を殺され、唯一生き残った妹も鬼にされてしまった。主人公は家族の仇を討ち、妹を人間に戻すために、「鬼殺隊」として鬼との死闘を繰り広げる──。
10月16日に封切りされた映画『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』は、史上最速で興行収入100億円を突破し、公開から1か月で259億円超となる空前の大ヒットを記録している。原作コミックも売り切れが続出した。
なぜ「鬼」をテーマにした作品が、これほど人々を惹きつけるのか。日本の歴史を紐解くと、いつの時代にも「鬼」の存在が身近にあったようだ。
『鬼と日本人』など鬼に関する複数の著書がある、国際日本文化研究センター名誉教授の小松和彦氏が語る。
「日本人は古くから鬼を“人間の裏返し”として思い描いてきました。人間が抱く反社会的・反道徳的な行動や観念のイメージとして造形されたものが鬼であり、その存在を際立たせることで“人間とはかくあるべき”というイメージが時代ごとに形成されてきた。その意味では、日本人は常に鬼を必要とし、鬼と共に生きてきたといえます」(以下、カッコ内は小松氏)
「ありがたい存在」
「鬼」という言葉の歴史は古く、『古事記』や『日本書紀』といった文献にも登場している。
多くの人が思い描く鬼といえば、角が生えており、筋骨たくましく、肌は赤や青などの原色で、虎皮のふんどしを穿いているというイメージだろう。しかし、歴史を遡ると、鬼は最初からこんな姿ではなかったようだ。
「たとえば平安時代の説話集『今昔物語集』では、手が3つで足が1つの者、目が1つの者、馬や鳥の頭をした者といった“異形の鬼”が記されています。こうした説話に登場する鬼の群れは『百鬼夜行』と呼ばれ、絵画化されたものも数多く存在します。