認知症の母(85才)を支えるN記者(56才)が、介護の裏側をつづる。今回は、闘病する義弟を励ます母のエピソードを紹介する。
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母の義弟(妹の夫)が80才で食道がんを患った。手術は無事成功したものの、術後なかなか回復できず、コロナ禍中のつらい闘病となった。そんな妹夫婦に、数分前のことも忘れるようになった母が、凜と力強いエールを送った。
やっぱり怖い「がん」 義弟の発病を伝えられず
母は9人きょうだいで、末妹のMおばさんは、母とちょうど10才違いの75才。母を気遣ってよく電話をしてくれるやさしいおばで、好奇心も旺盛。最近、スマホデビューも果たしたばかりだ。
姉たちは全員、認知症である。そんな老姉を励ますべく、「Nちゃん、食事会を企画してよ」と言い出すのもMおばさん。コロナ以前は年に1回くらいは顔を合わせていた。
Mおばさんの夫であるGおじさんが食道がんになったと聞いたのは昨年末。陽気な酒宴好きで、元気な笑顔しか浮かばないので絶句したが、もう80才だと聞いてさらに驚いた。
しかも手術をするという。若くは見えるが80才は高齢だ。しかし、手術が決まったということは、成功の見込みが高いのか。「生涯で2人に1人はがんになる」とか、「がんは治せる病気だ」などと、もはやがんは“怖くない病気”に分類されているかのようだが、私にとってはまだまだ特別に怖い病気だ。母の年代にはなおのことだろう。
MおばさんやGおじさんに比べれば、はるかに衰えて見える母にはついに伝えられないまま、年を越してしまった。
年明けに手術が無事成功し、退院したとの連絡に喜んだのもつかの間、世の中は新型コロナ感染の混乱に突入。何かと不安な状況の中、Gおじさんの自宅療養をMおばさんがひとりで支えることになった。
術後しばらくは腸ろうを造設し、口から食べなくなると、とたんに激やせ。足の筋肉が落ちて歩くのもおぼつかないと、Mおばさんのへこみようも相当だった。患部の経過は良好とのこと。しかし、Mおばさんの力ない声が不憫だった。