新型コロナウイルス対策と経済活動の両立が望ましく、状況に応じてブレーキとアクセルを踏み分けなければならない。しかし今回、政府がとった方針は、「二兎を追う者は一兎をも得ず」のものであり、さらに被害を広げるリスクもある。このままでは「第3波」は“永久に”収束しない──。
国がGo Toの全面停止に踏み切らなかったのは、旅行業をはじめとする経済活動に配慮したからだ。しかし、そもそも旅行者の中心を占めるのは60代だ。2015年冬季の「国土交通政策研究所報55号」によると、国内宿泊旅行数は年平均で1.39回。そのなかで最も回数が多いのが時間とお金に余裕のある60代の1.62回だった。年金暮らしの高齢者はコロナによる経済不況の影響を受けにくく、Go Toは多くのシニア旅行者で活況を呈した。
「しかも高齢者はネット予約が使えないことも多く、旅行代理店を通しての手配が多かった。実際、大手代理店の予約の半分以上は高齢者だったといわれます。その世代がGo To自粛で旅行しなくなると、ホテルや旅館、旅行代理店に大打撃を与えます」(旅行業界関係者)
評論家の古谷経衡さん(38才)も政府の方針に疑問を呈する。
「JRなどの高齢者向け旅行キャンペーンを見てもわかるように、もともと旅行の主役は高齢者でした。いまの若者は経済的に苦しく、Go Toがあっても旅に出る余裕がない。それなのに高齢者の旅行を打ち止めにしたら、Go To自体が意味を失います」
Go Toは税金から補助される公共サービスだ。本来、公共サービスは国民が等しく平等に受けられることが大前提で、65才という年齢制限がつけられることは不平等をもたらす。これまで政府は税金で、営業時間の短縮を要請した飲食店には協力金を出し、医療機関などにも「緊急包括支援金」などのサポートを施してきた。Go Toは消費者を旅行に促して旅行関連業者をサポートする施策だが、高齢者というだけで、その「果実」を得られなくなる。
「私たちも税金を払っているのに、65才以上だからという理由だけで対象外になるのは不公平です。ただでさえ『お年寄りは家にいろ』との雰囲気が蔓延しているのに、これ以上、社会から邪魔者扱いされるのは耐えられません」(70代女性)
重症化リスクが高く、家にこもってがまんし、そもそも新型コロナの不利益を最も被っているシニア世代が補助対象から外れやすく、無症状の若者ばかりが恩恵を受ける。偏りのある対策に巨額の税金が投じられていいのだろうか。古谷さんは、Go Toの代わりに全国民に給付金を配ることを提案する。
「利用した人だけ得するGo Toを中止し、所得制限なしで、すべての世代に短期ベーシックインカムのようなかたちで現金を給付すれば、全世代が平等になる。金額が5万円なのか10万円なのかはさておき、期限を設けず、コロナが収まるまで給付するのがベストです」
※女性セブン2021年1月1日号