東京とその近郊の距離は、地図や路線図でみるよりもずっと密接な関係だ。千葉都民という言葉があるように、千葉県北西部からは東京への移動が便利なため千葉県に住みながら東京都へ通勤通学する人の割合が多いことでも知られているが、実は都内からこの千葉方面への移動も多く、お互いに行き来が頻繁で生活圏がかなり重なっている。ふだんは生活圏が重なっているけれど行政区分が別であることに、それほど不便を感じていなかったが、新型コロナウイルスによって理不尽さに不満がたまっている。ライターの森鷹久氏が、もっとも影響を受けている飲食店が追い込まれている窮状についてレポートする。
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12月上旬、夜10時過ぎの千葉・船橋市の居酒屋は、多くの客で賑わっていた。都内に通勤しているという近所在住の男性常連客(40代)が、顔を赤らめながらいう。
「知事は次の選挙、出ないんだよ。だから、県民のことなんてどうでもいいの。地元の居酒屋が困ってるのに、県は何もやってくれないどころか、ほとんど見せしめ……いや見殺し。そのせいで、全然関係のない他県のやつから苦情の電話まで店にかかってきているんだから。だから我々客がしっかりサポートしてあげないと」(常連客)
千葉県の森田健作知事は12月1日、ここ船橋市や柏市、市川市など千葉県北西部11市の飲食店を対象に、夜10時以降の酒類提供の制限を「要請」した。11市については、人口10万人あたりの感染者数が、国が定めた指標レベル4段階のうち、上から2番目に深刻な「ステージ3」の指標である15人に近い「13人」を超えたことが理由であると説明。一番の人口を誇る県都・千葉市は「5.8人」にとどまるとして要請を見送った。
ところが、この要請はあくまでも「お願い」であり、営業時間の短縮は要請しないため協力金などの見返りはないと発表。飲食店関係者はさらに激しく反発している。
「しっかり協力している店なんかゼロ。コロナに感染したくないし、お客さんを危険な目にもあわせたくない。だから、本音は休みたい。でも、休んだら生活ができないし、食べていけない。コロナにかかる前に死んじゃうんですよ。4月から5月、6月にかけての時短営業要請や休業要請は、貰える金額が最低限でも、うち含めほとんどの店が守りました。今回はそれもない。黙って死ねというのか」(船橋市の居酒屋店主)
船橋市の北に位置する松戸市も「要請」の対象であるが、やはり協力金がないなら営業を続けるしかないという飲食店が多数存在する。市内の飲食店店員は、JR常磐線で松戸から一駅隣、東京都葛飾区にある金町駅付近の飲食店がしっかり「要請」に応えているとことに、ため息を漏らす。