アーケードのある歩道が続き昭和の面影色濃い大口通り商店街に店を構える『石川屋酒店』。総菜屋や金物屋など昔ながらの商店が並ぶ通りを国道1号線方面に歩いていくと、“石川蔵 立呑処”という小さな看板と赤提灯が見えてくる。
5代目店主の渡辺昭司さん(80歳)は新潟・新発田の出身。
「田舎から出てきてここへ就職しましてね。当時は大きな酒屋で従業員も大勢いる店でね、番頭にまでなりました。その後、今から20年ほど前になるかねぇ、先代が店をたたむって話になったんで、あたしが引き継いだんですよ」(昭司さん)
以来、長年連れ添った夫を「根っからの酒屋仕事が好きな人」と評する妻の孝子さん(79歳)と昭司さんが夫婦で共に店に立つ。
酒屋と壁で仕切られた細長い角打ちスペースには、“昭ちゃん”と店主を慕って朝から客が次々やって来る。
「人情味あふれる昭ちゃんに惚れて、毎朝50分ウオーキングがてら来ています。朝から世間話してつい長居しちゃうんだよね」(70代、年金暮らし)
「近所の銭湯帰りに一杯やりに来ています。お父さんとお母さんが仲良しな感じが良くてね、ご夫婦の人柄が最高ですよ。手作りの煮魚もうまいんですよ」(60代、製造業)
ぶり大根、太刀魚など季節の魚の煮つけ、野菜の煮物など店主お手製のつまみも評判だ。
「魚が好きなお客さんが多いからね。店の奥の台所で朝からせっせと仕込んでますよ。先日はカレーが食べたいなんて言われましてね」と客の声に応じてメニューを考えることもあるという。
「あたしは人が好きなんですよ。昔っから角打ちやってきて、何が楽しいって、お客さんとバカ言いながら話をしてることでしょうね。この年まで病気ひとつしてない。健康だけが取り柄だし、皆さん来てくれるから、365日無休ですよ」(昭司さん)
「昭ちゃんが毎日店を開けているから、こっちも負けてらんないよ。元旦から大晦日まで通ってますよ。おふくろが死んだ日もここへ来て、話を聞いてもらったからね」(60代、皆勤賞)