家にいる時間も長かった2020年。あの人はどんな本を読んだのか? 読書家の著名人4人に「私が選ぶ3冊」を選んでもらった。
●山田詠美さん(小説家)
『パトリックと本を読む 絶望から立ち上がるための読書会』ミシェル・クオ 訳・神田由布子(白水社)
冒頭の数行で、一生の内に出会うべき本の内の一冊であるのが解った。台湾系アメリカ人の若い女性が黒人文学に導かれて、貧困と人種差別の土地に赴く。人間が言葉を使って目の前の他者にしてやれる最大限の心づかいを描いたもう一つのBLM。
『精神科医・安克昌さんが遺したもの 大震災、心の傷、家族との最後の日々』河村直哉(作品社)
『おべんとうの時間がきらいだった』阿部直美(岩波書店)
●桐野夏生さん(小説家)
『贖罪 ナチス副総統ルドルフ・ヘスの戦争』吉田喜重(文藝春秋)
映画監督である吉田喜重さんが、87歳にして初めて書いた小説。それは、「わたし」の少年時代の思い出から始まる。その記憶が、やがてルドルフ・ヘスと思しき男の「手記」に繋がってゆく。小説ってこんなこともできるんだ、と驚愕する一冊。
『私たちはどんな世界を生きているか』西谷修(講談社現代新書)
『日本蒙昧前史』磯崎憲一郎(文藝春秋)
●角野栄子さん(作家)
『心は孤独な狩人』カーソン・マッカラーズ 訳・村上春樹(新潮社)
作家、23歳の時の作品。孤独な心はここではないどこかを求め彷徨う。でも、ハッピーエンドは来ない。そんな人々を、実に繊細な感性で、作家は書きあげていく。読後は暖かい。22歳の時に作品と出会い、今年、村上さんの名訳で再会した。長生きしてよかった!
『緑の髪のパオリーノ』ジャンニ・ロダーリ 訳・内田洋子(講談社文庫)
『神さまの貨物』ジャン=クロード・グランベール 訳・河野万里子(ポプラ社)
●桜木紫乃さん(小説家)
『わたしもかわいく生まれたかったな』川村エミコ(集英社)
著者はお笑いコンビ「たんぽぽ」のボケ担当。幼い頃からの思い出を綴る文章には不思議な吸引力があって、何気なく挟み込まれた一行に、つい引きずり込まれてしまう。つらい記憶を分析するのは胸の裡の美しい天秤だったり、ふるいだったり。切ない。
『看る力 アガワ流介護入門』阿川佐和子、大塚宣夫(文春新書)
『ベスト・エッセイ 2020』編・日本文藝家協会 編纂委員・角田光代、林真理子ほか(光村図書出版)
※女性セブン2021年1月7・14日号