1990年代に一大ブームとなった「ヘアヌード」。この時代の扉を開いたのは樋口可南子の写真集『water fruit』だった。ヘアヌード「元年」とも言える1991年以前は、ヘア写真を見るには書店の芸術書コーナーでアート系の写真集を買うか、街の書店の成人向け本コーナーや自販機でビニ本を手に入れるほかなかった。
そこに1991年の年明けに初めて有名女優がモデルとなってヘアを晒し、書店の一般書コーナーで売られるヌード写真集が登場したのだ。
この写真集に収録された写真54点中15点にヘアが写っている。前例がなかったが、「モノクロでアートとして撮る分には構わないだろうって」と篠山紀信氏は2019年の朝日新聞のインタビューで当時を述懐している。
大々的に宣伝しなかったにもかかわらず、アートとしての評価に加え、「ヘアが写っている」との口コミが広まり、発売3か月後には作家の高橋源一郎氏によって朝日新聞の文芸時評にも取り上げられた。最終的には55万部を売り上げた。
この写真集の発売直後に荒木経惟氏によるヘアが写ったヌード写真が芸術系の月刊誌に掲載され、警視庁は2つのケースが刑法のわいせつ罪に当たるかどうかを検討したものの、摘発は見送られた。
これが事実上のヘア解禁となった。以後、有名女優によるヌード写真集発売が噂されると「ヘア付き」か否かが関心の的になった。「ヘアヌード」という言葉が登場し、定着するのは2年後のことだ。
※週刊ポスト2021年1月1・8日号