北朝鮮の秘密警察の役割を果たす特務機関である国家保衛省はこのほど、金正恩朝鮮労働党委員長ら金ファミリーのための秘密資金を調達する朝鮮労働党第39号室の幹部らを、アメリカのラジオを密かに聴いていたことを理由に銃殺したことがわかった。
北朝鮮国家保衛省に銃殺されたのは、朝鮮労働党第39号室所属の大型漁船団の船長ら。15年以上にわたって米政府系報道機関「ラヂオ・フリー・アジア(RFA)」の朝鮮語放送を密かに聴いていたとして、他の39号室の船長100人と漁業関係部門幹部が居並ぶ中で、銃殺されたという。
RFAによると、銃殺された船長は「崔」という姓で年齢は40代、50隻以上の大型漁船を率いる漁船団の指導幹部だったとのこと。
崔は朝鮮人民軍で長年、無線オペレーターを務めた経験があり、25歳の時から、ラジオに細工をして、RFAを聴くことができるようにして、しばしば音楽やニュース番組を聴いていたという。崔は軍勤務後、39号室に転籍。親が党幹部だったことから、大型漁船船団の幹部に抜擢され、金ファミリーのために、世界各地の漁場を回っていたという。
崔は国家保衛省の取り調べに対して、兵役を終えた後もRFAを聴いており、RFAを聴くと、軍隊時代の懐かしい思い出がよみがえったと供述。また、彼は幹部の息子で、特権階級に属していたため、ラジオを聴いたくらいでは逮捕されないと思っていたようだ。
ところが、漁船の乗組員が船長室で崔がRFAを聴いているのを見つけ、北朝鮮の清津港についたときに、他の幹部に崔の行動を密告したことで露見し、国家補保衛省によって逮捕された。
国家保衛省幹部は崔が北朝鮮の法規に触れることを承知で15年以上に渡ってRFAを聴いていたことを問題視し、銃殺刑を決定。清津の軍の基地で他の100人の船長と魚加工工場の幹部らの前で銃殺刑に処せられた。
北朝鮮では国民が韓国など海外のラジオやテレビ番組やDVD、CDを視聴することは禁止されており、逮捕者はしばしば強制収容所送りになるといわれている。崔の銃殺刑は極めて重く、異例中の異例だが、この裏には、他の船員や軍の軍用無線オペレーターらが海外のラジオを聴かないための見せしめ的な要素が大きいとみられる。
北朝鮮の国営朝鮮中央通信は最高人民会議(国会)常任委員会が12月4日、平壌で総会を開き、反社会主義思想文化の流入、流布を防ぐ「反動思想排撃法」を採択したと報じた。同法によって、韓国を含め海外からの情報流入を徹底して遮断し、金正恩党委員長による独裁体制維持に向けた統制強化を図る狙いがある。崔の銃殺刑も、このような一連の統制強化の一環といえよう。