故・野村克也さんが2006年、楽天イーグルスの監督に就任したとき、すでに70代だった。高齢であることに不安の声も出ていたが、田中将大や嶋基宏など若い才能を鍛え上げた。選手時代だけでなく、引退してコーチとなってからも野村さんの薫陶を受けた橋上秀樹氏が、楽天時代にコーチとして野村監督からもらったアドバイスを振り返る。
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選手時代にかけられた言葉で印象深いのは「己を知れ」ですね。自分の役割をしっかりと認識した上で、目標を設定して練習に取り組みなさいという意味でした。
バッティング練習をしている時に、野村監督から「何を目指して練習しているんだ」と聞かれて、即答できなかった。「お前が4番を打てるのか?」とまで言われた時は衝撃でした。
プロ野球はそれまでエースで4番だった者たちの集まりですが、プロではそうは上手くいかない。だから、変化を求められるのです。
野村監督は将棋に例えて、「飛車角ばかりいっぱいいてもダメ。それぞれの駒が役目を果たして、初めて敵の王将を追い詰めることができる」と言っていました。
引退後、私も指導者の道を歩ませていただけたが、選手にはそれぞれ特徴があり、身体能力も違うから、自分がどんな役割を果たせるかを考えるように指導しています。
楽天のヘッドコーチ時代は、チームが弱かったので常に怒られていた記憶しかありませんが、4年目に2位になった時、「このチームも特徴のある選手が増えて、ワシの言いたかったことが浸透してきた。底上げができたのかなあ」と言われた。
監督の目指した方向に進んでいるというコーチに対する最高の褒め言葉だったんじゃないかと胸に刻んでいます。
【プロフィール】
橋上秀樹(はしがみ・ひでき)/1965年生まれ。ヤクルト、阪神で野村監督の下でプレー。2005年に楽天のコーチに招聘され、2007年からは野村楽天のヘッドコーチを務めた。
※週刊ポスト2021年1月1・8日号