2020東京五輪が新型コロナウイルスの感染拡大によって「1年延期」となったことで、多くのアスリートの運命を変えつつある。故障やスランプから復活する猶予ができた選手もいる。
お家芸である体操のレジェンドにして3つの金メダルを持つ内村航平(31)は、東京五輪出場が危ぶまれていたひとりだった。2019年の全日本選手権では肩の負傷で予選落ち。限界か。そんな声が挙がるのも自然だった。
延期決定後、個人総合の五輪3連覇を諦め、種目を鉄棒一本に絞る決断を下した。12月13日の全日本選手権ではH難度の離れ技「ブレトシュナイダー」を決め、2位に1点差以上をつける異次元の演技で優勝した。ロス五輪鉄棒の金メダリスト・森末慎二氏が語る。
「30を過ぎ、ケガもあるなかでオールラウンダーとして6種目に挑戦すれば、どうしても筋力の衰えが目立ってしまう。鉄棒は、つり輪や平行棒ほど両肩への負担はありません。航平はH難度の技でも足が開かず、着地も安定し、Eスコア(出来映え点)も期待できる。鉄棒のスペシャリストは世界にも多いが、種目別でメダルの可能性はあると思います。日本が団体でメダルを獲るには、チームを引っ張れる航平が代表入りするのは大きい」
対照的に崖っぷちに立たされたのは、リオ五輪の団体金メダルに貢献した白井健三(24)だ。2019年2月に左足首を痛め、8月には左肩を亜脱臼した。日本が誇るゆかのスペシャリストもケガが足枷となり、低迷。12月の全日本選手権も個人総合が18位、種目別のゆかでも4位に。暗闇から抜け出せずにいる。
「あん馬とつり輪が弱く、得意のゆかと跳馬で得点が伸びなければ、代表は厳しい選手です。それなのにゆかの最後の着地は安全策の3回ひねりをしている。『シライ』の技名がついた4回ひねりに挑んでこそ健三なのに、3回だと他の選手と変わりません」(森末氏)
レポート/柳川悠二(ノンフィクションライター)と週刊ポスト取材班
※週刊ポスト2021年1月15・22日号