引退後の力士が、親方として日本相撲協会に残るために必要なのが「年寄名跡(年寄株)」だ。その複雑怪奇な仕組みは、まさに“角界の伏魔殿”である。
「八角」「尾車」「芝田山」など105の名跡があり、襲名には協会の規程で条件が定められている。そのひとつが「日本国籍を有する者」だ。
モンゴル出身の横綱・鶴竜は、2019年7月場所の優勝以来、休場を繰り返してきた。帰化申請がなかなか認められず、延命を図ってきたとみられている。それがようやく12月10日に帰化が認められ、年寄株襲名の条件は整った。だが、それでも複雑な“利害関係”が絡み合っているという。
「2019年9月に鶴竜の師匠である井筒親方(元関脇・逆鉾)が亡くなり、株の権利を持つ遺族は“『井筒』は鶴竜に継いでほしい”と意思を明確にしている。
ただ、1月場所で即引退となると窮地に陥るのが、現在、『井筒』の株を借りていて、他に襲名できる株がない元関脇・豊ノ島です。鶴竜としても、同じ一門の先輩である豊ノ島を無下にはできない。横綱は引退後も5年間は現役時代の四股名のまま協会に残れるが、それにしても限度がある。1場所でも長く延命を図ろうとしていくのではないか」(若手親方)
もうひとりの横綱・白鵬は1月5日に新型コロナウイルスに感染したことがわかり、初場所の出場は絶望的な状況だ。その白鵬もこれまで休場ばかりだが、背後にはやはり年寄株を巡る問題が見え隠れする。
「白鵬は2019年9月に日本国籍を取得したが、鶴竜と違って継承できる見込みの年寄株がない。継げる株を探すにはこちらも時間を稼ぎたいはず」(同前)
年寄株制度の存在によって両横綱が引退を拒み、延命工作に走っているとみることができるのだ。
※週刊ポスト2021年1月15・22日号