新型コロナウイルス感染拡大の影響で、2020年に大打撃を食らった宿泊業界。岡山県・湯郷温泉の老舗旅館「ゆのごう美春閣」は、以前は月1万人の利用があったというが、コロナで休業を余儀なくされ、「来館者数0」を経験した。その混乱の中心で指揮を執ってきた女将・永山泉水さん(43)が語る。
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政府が緊急事態宣言を発令した昨年4月7日を境に、予約が一気に消えていき、2か月間の休業に入りました。過去、多い時で1か月に約7000人の宿泊のお客様に来ていただき、日帰り入浴の方々も含めると1か月1万人ぐらい来館されていたお客様が、休業によって0人になったわけです。
2002年の創業以来、こんなに長期にわたり休業したのは初めてでした。もちろん大打撃です。しかし、走り続けるしかないと、休業期間中はスタッフの教育訓練に力を入れました。お客様を受け入れることができない中、これまでの研修以上にスタッフ全員が真剣に取り組んでくれました。時間はたっぷりあったので、これからどうすればお客様に喜ばれる旅館づくりができるかなど様々なテーマを全員で考える研修もでき、チームワークの強化にもつながったと実感しています。
女将を兼務する鷲羽山下電ホテルも休業しましたが、岡山県の依頼で、コロナの軽症者受け入れ施設として指定を受けました。結果的に、お一人も入館することはなかったのですが、全室オーシャンビューのホテルで療養していただければと、スタッフと態勢を整えていました。
私は大阪府堺市で生まれ育ち、大学卒業後に兵庫県の宝塚グランドホテルに入社。系列ホテルで働いていました。将来はホテルの総支配人になるのが夢でしたが、旅行業者の会議で知り合った「ゆのごう美春閣」などを経営する夫と27歳で結婚し、美春閣の女将になりました。
女将としてこれだけは守り続けなければと考えているのは、常に笑顔でいることです。お客様に元気になっていただける旅館を目指しており、その原動力になるのは笑顔と信じています。もし笑えなくなったら、女将を辞めようと覚悟しています。コロナ禍の苦境にあっても笑い続けていきます。
■ゆのごう美春閣
【住所】岡山県美作市中山1144
【料金】1人1泊/1万2300円~。(*旅館の宿泊料は1月の平日、2名1室利用・2食付の設定(消費税・入湯税込み))
撮影/二石友希 取材・文/上田千春
※週刊ポスト2021年1月15・22日号