ライフ

【書評】「季語のとりこ」になった川上弘美氏の俳句エッセイ

『わたしの好きな季語』著・川上弘美

『わたしの好きな季語』著・川上弘美

【書評】『わたしの好きな季語』/川上弘美・著/NHK出版/1700円+税
【評者】嵐山光三郎(作家)

 季語は連歌や俳句の季節を示すための言葉で、朝寝は春、団扇は夏、枝豆は秋、沢庵は冬。沢庵を漬けるのが冬なのでそうなります。で、七草は新年。「妙な言葉のコレクション」が趣味だった弘美さんは、大学生のころ、図書館で「歳時記」を発見して狂喜して読みふけった。それまで見たことも聞いたこともなかった奇妙な言葉が歳時記に載っていて「まるで宝箱を掘り出したトレジャーハンターの気分になった」。

 そうやって十数年たったころ、ひょんなことから俳句をつくるようになった。季語のとりことなっていく日々のエピソードをつづった俳句エッセイ集。絵踏は冬の季で「傾城の蹠白き絵踏かな」(芥川龍之介)の句にある「生と性と死の結びつき」とはなにか。

 朝寝は春の季語で「あらうことか朝寝の妻を踏んづけぬ」(脇屋善之)。「朝寝は、大好き」と語りながらこの句を示すのです。団扇は夏の季。弘美さんの家には全部で二十三枚の団扇がある。お気に入りの句は「へなへなにこしのぬけたる団扇かな」(久保田万太郎)。枝豆は秋。朝顔の種、枝豆、西瓜が「秋の季語・意外ベストスリー」。八月のはじめ、立秋の前日で歳時記での夏はおしまい。

 弘美さん流枝豆のゆで方は、柔らかゆで期→固ゆで期→気まぐれ期のサイクルを二週間ほどで繰り返す。「枝豆や三寸飛んで口に入る」(正岡子規)。食べ物の句になるとガゼン色めきたつ。

 さて、たくわんの章には「死にし骨は海に捨つべし沢庵噛む」(金子兜太)。太平洋戦争のことを詠んだ句を示しながら、祖母が漬けたしょっぱくて、すっぱくて、ひねていたたくあんを思い出す。七草は新年で「せり・なずな、以下省略の粥を吹く」(池田政子)。ははは「以下省略」がいいね。

 季語に関する九十六編のエッセイは、これから俳句を詠んでみようという人におすすめです。十年前に春愁という季語でたくさんつくった弘美句で一句だけ句集に載せたのは「はるうれひ乳房はすこしお湯に浮く」でした。

※週刊ポスト2021年1月15・22日号

関連記事

トピックス

小室圭さんと眞子さん(2025年5月)
《英才教育》小室眞子さんと小室圭さん、コネチカット州背景に“2人だけの力で”子どもを育てる覚悟
NEWSポストセブン
アントニオ猪木さん
アントニオ猪木を看取った付き人が明かす「最期の2か月」 “原辰徳の物まねタレント”が猪木を介護することになった不思議な巡り合わせ
週刊ポスト
寄り添って歩く小室さん夫妻(2025年5月)
【ステーキの焼き方に一家言】産後の小室眞子さんを支えるパパ・小室圭さんの“自慢の手料理”とは 「20年以上お弁当手作り」母・佳代さんの“食育”の影響
NEWSポストセブン
不正駐輪を取り締まるビジネスが(CPGのHPより)
《不正駐輪車を勝手にロック》罰金請求をするビジネスに弁護士は「法的根拠が不明確」と指摘…運営会社は「適正な基準を元に決定」と主張
NEWSポストセブン
「子供のころの夢はスーパーマンだった」前田投手(時事通信フォト)
《ワンオペ育児と旦那の世話に限界を…》米国残留の前田健太投手、別居中の元女子アナ妻が明かした“日本での新生活”
NEWSポストセブン
眞子さんと佳子さま(時事通信フォト)
《眞子さん出産発表の裏に“里帰りせず”の深い溝》秋篠宮夫妻と眞子さんをつないだ“佳子さんの姉妹愛”
NEWSポストセブン
田中容疑者の“薬物性接待”に参加したと証言する元キャバクラ嬢でOLの女性Aさん
《27歳OLが告白》「ラリってるジジイの相手」「女性を切らすと大変なんだ…」レーサム創業者“薬漬け性接待”の参加者が明かした「高額報酬」と「異臭漂うホテル内」
週刊ポスト
宮内庁は小室眞子さんの出産を発表した(時事通信フォト)
【宮内庁が発表】眞子さん出産で注目が集まる悠仁さま成年式「9月ならば小室圭さんとともに出席できる可能性が大いにある」と宮内庁関係者
NEWSポストセブン
「大宮おじ」「先生」こと飯田光仁容疑者(32)の素顔とは──(本人SNS)
〈今日は〇〇にゃんとキスしようかな〉32歳無職が逮捕 “大宮界隈”で少女への性的暴行疑い「大宮おじ」こと飯田光仁容疑者の“危険すぎる素顔”
NEWSポストセブン
明るいご学友に囲まれているという悠仁さま(時事通信フォト)
悠仁さまのご学友が心配する授業中の“下ネタ披露” 「俺、ヒサと一緒に授業受けてる時、普通に言っちゃってさぁ」と盛り上がり
週刊ポスト
TBS系連続ドラマ『キャスター』で共演していた2人(右・番組HPより)
《永野芽郁の二股疑惑報道》“嘘つかないで…”キム・ムジュンの意味深投稿に添付されていた一枚のワケあり写真「彼女の大好きなアニメキャラ」とファン指摘
NEWSポストセブン
田中圭の“悪癖”に6年前から警告を発していた北川景子(時事通信フォト)
《永野芽郁との不倫報道で大打撃》北川景子が発していた田中圭への“警告メッセージ”、田中は「ガチのダメ出しじゃん」
週刊ポスト