親が認知症になっていちばんつらいのは、コミュニケーションが取りにくくなることではないだろうか。自分がよく知るはずの親の変化は理解するのも受け入れるのも難しい。一生懸命やっているのに甲斐なくすれ違ってしまう。
「ユマニチュード」はそんな認知症ケアの困難を解決する技法として注目されている。そこに貫かれた哲学は家族に大きな気づきをくれる。日本ユマニチュード学会代表理事の本田美和子さんに聞いた。
うまくいかない原因 キーワードは “不安”
「人は不安があると、とても落ち着かなくなるものです。認知症のある人が同じ質問を繰り返したり、急に怒り出したり、むやみに拒否したり、ケアする人が困った状況になるときの多くは、本人が不安を感じているときなのです」と言う本田さん。
認知症は脳細胞が変化して、記憶障害や判断力の低下、時間や場所、言葉の意味がわからなくなることもある。このような機能低下で不安になるのは想像に難くないが、実は家族などケアする人の何気ない言動が不安を増幅させ、困った状況の引き金になることも少なくないという。
「たとえばこんな事例があります。料理をたくさん作って並べたけれど、老親がまったく食べてくれない。原因はたくさんの情報(料理など)が処理しきれなくなっていて、混乱したせいでした。目の前のお皿に一品だけ出されれば安心して食べられる。表面的には気づきにくい場合も、原因は必ずあるのです」
ほかにも、認識できる視野が狭くなるため正面以外から声をかけても気づきにくくなったり、理解や判断に時間がかかるようになるため、矢継ぎ早に話しかけられると混乱したりする。家族にとっては当たり前のことが、当たり前でなくなっていると気づくことがスタートなのかもしれない。
「機能が低下しても本人が穏やかに生活できるよう、またケアの困り事を解決するためにも、できるだけ〝不安”を取り除くことが大切です。しかし認知症の出方は人それぞれ、タイミングによっても変化しますから、何が不安か、原因を探るのは簡単ではありません。その手掛かりを見つけるためのコツがユマニチュードの中にあるのです」