日本でも安楽死法制化の議論がたびたび取り上げられるようになった。この問題について漫画家の弘兼憲史氏はこう指摘する。
「我々団塊世代は2025年には後期高齢者となります。『長寿国』といっても裏返せば若者に社会保障の負担をかける社会です。世界の潮流のように、日本も真剣に安楽死を法制化する時代がきています。
寝たきり状態でも生き続ける――それでは100歳まで生きたとしても万々歳とは言えません。僕の父親は亡くなる前に半年ほど延命治療を受けました。全身チューブに繋がれた姿を思い浮かべると、一刻も早く楽になりたかったのではないかと考えてしまう。ただ生きるということにはあまり意味がないのです。
人間には生きる権利がある。同様に、本人の意思で『死ぬ権利』も認められるべきではないでしょうか」
一方で『死ぬ権利はあるか』著者で横浜市立大学准教授の有馬斉氏はこう危惧する。
「日本でも『本人が望むのなら安楽死を認めるべきだ』という意見が散見されますが、安易に肯定するのは危険です。
たとえば貧困層など社会的弱者が安楽死の条件である『耐えがたい苦痛』を訴えた場合。これが富裕層なら医療や介護の面でもっとサポートを受けることができる。
しかし貧困層は経済的な理由で『耐えがたい苦痛』を取り除けないかもしれない。こうした違いで安楽死できるかどうかに差が出てくるのは望ましいことではない。
『死ぬ権利』と一言に言っても、その裏には本人の意思や病状だけでなく、社会的な背景が重層的に絡んでくる。こうした点もしっかり考慮されるべきだと感じます」
※週刊ポスト2021年1月15・22日号