コンプライアンス遵守が叫ばれる昨今、テレビの放送内容も大きく変化している。典型的なのがお色気シーン。かつては確実に数字が見込めるコンテンツだったが、現在は自粛を余儀なくされるケースが多いようだ。
映画監督の山本晋也氏はそんな空気に違和感を拭えないようだ。
「近年はちょっとしたお色気シーンでも局にクレームが来るみたいだけど、そもそもテレビって低俗なものなんだよ。多くの男性はHなシーンに興味があるわけで、その俗っぽさ、いわば“本音の欲望”に寄り添うのもテレビの役割だと思う。
僕は『トゥナイト』(テレビ朝日系)をはじめ、1980年代から深夜のお色気番組を作ってきたけど、当時はのぞき部屋からイメクラまでなんでも取り上げた。自粛、規制で画面からこうした映像が消えて、思春期の子が心配だ。テレビで免疫を付けることもなく、いきなりパソコンで過激動画を見るんだから。『健全ないやらしさ』は必要なものだ。今の時代、そこに向き合う番組が必要なんじゃないかな」
反対に、麻生千晶氏(作家)は「規制は必要」というスタンスだ。
「私は元来、お色気番組に目くじら立てるタイプではないけど、今の時代はもう“テレビ的なお色気”が視聴者に求められていない。
お昼のワイドショーでえげつない『多目的トイレ不倫』が取り上げられている状況で、お色気シーンにリアリティなんて誰も感じませんよ。現実がテレビを追い越したというか、『人の性って本当はもっとドロドロで汚いよね』っていうことにみんな気付いてしまったんです。ネットの発達はそうした空気を加速させたと思います。
こんなご時世に『テレビにはお色気が必要だ』と言われても、制作者側のエゴにしか聞こえない。わざわざ放送する意義を見出せません」
※週刊ポスト2020年1月15・22日号