“ばぁば”の愛称で親しまれ、女性セブンでも長きにわたる連載で料理エッセイを綴り、いくつものレシピを教えてくれた日本料理研究家の鈴木登紀子さんが、2020年12月28日、肝細胞がんのため96才で亡くなりました。
青森県で生まれ、22才で上京して鈴木清佐さん(2009年に逝去)に嫁ぎ、一男二女を育てる専業主婦だったばぁばが料理番組『きょうの料理』(NHK Eテレ)で“日本料理研究家”としてデビューしたのは46才のとき。丁寧な下ごしらえと調味の妙、美しい盛りつけに加え、歯切れのよい軽妙な解説が人気となり、多忙を極める日々が始まった。いつも明るくパワーたっぷりだったばぁばのモットーは、“自分は家庭の主婦”ということだった。ばぁばはかつて、こんな話をしていた。
「(料理教室の)お稽古と撮影・取材で、目が回るような忙しさでしたが、それはパパ(清佐さん)が見守ってくれたからできたことで、私はあくまでも“鈴木家の主婦”。よほど特別な理由がない限り、パパの食事を娘たちにすら任せたことはありません」(ばぁば、「 」内以下同)
“家族に対する愛情は”、女性セブンの撮影スタッフに対しても同様だった。お昼時になると、撮影済みの料理に加え、炊きたてのご飯と汁椀、焼き魚、漬けものなど、和食の基本献立である“一汁三菜”を整えてくれながら、ばぁばはパパさんに御膳を運ぶのを絶対に忘れなかった。
「家族を思い、手をかけたお料理は体を癒し、心を元気にするの。言葉以上の愛情表現だと、ばぁばは思います」
覚えておいてほしい食卓での決まりごと
いまの時代、ついおざなりにされてしまう料理の“基本のき”とともに、ばぁばが「これだけは伝えておきたい」と切望していたのが食卓での作法だった。
「できれば折敷かランチョンマットと箸置きは家族分用意していただきたいの。そしてどんなときでも飯碗は向かって左、汁椀は右に配して、『いただきます』の後にまず手に取るのはお茶碗。大皿料理やお漬けものには必ず取り箸と小皿を添えましょう。直箸はいけませんよ。
また、手を添えて食べるのを“上品”とする風潮があるようですが、これは不作法の極みです。手に汁がこぼれたら、どこで拭くのですか。小皿あるいはお椀の蓋でもよいですから、器をお使いくださいね」
大皿料理にはかならず取り箸と小皿を添えて、子供や孫たちが小さい頃から取り分ける習慣を身につけさせたとばぁばは。常に愛情に満ちていた
「社会に出て困るのは子供たちです。“恥”を教えるのは親の責務ですよ」
取材・文/神史子
※女性セブン2021年1月28日号